旅立ち(度断ち)






希望を持つと失望する

信念を持つと失敗する



 潤さんからの電話があってから僕は玄関を出た。(こんどは結び目が切れなかった)


 家を出ると目の前には数々のデパートたち。ここが京都だとはなかなか考えられない場所だ。


 まあ、人間だと思われない、思えない我々殺人鬼が住むにはいい場所なのかもしれないが。


 ――さて、突然だが、ここで自己紹介でもやらせてもらおう。ここでやっとかないと後々やる暇がなくなるのだと思うので。


 まず、僕の名前から。僕の名前は零崎。つまり苗字は『零崎』だ。この苗字からわかるように僕は殺人鬼である。種々様々な魑魅魍魎がうずまき、慈悲も無く感慨も無い極悪の『悪人達』の中でさえ、人を殺すしか能の無いとしか思えない殺し名のなかでさえ最も忌避されている集団、零崎一賊に僕は所属している。


 僕は零崎よりももっと忌避すべしものがたくさんあると思うんだけど……。例えば石凪。これなんかは零崎よりも忌避すべきではないのだろうか。


 ――まあ別にいいけど。


 僕が零崎に『成った』のは十四歳のころ。つまり二年前だ。そのときの僕の名前は石凪春妬。この名前――というか苗字を見てわかる人はわかるだろう。


 そう、僕は元『死神』なのだ。


 僕が零崎に成ったとき、(何時成ったというのはなく、いつのまにかという感じだった)ものすごい騒動になった。世界で驚愕の嵐が沸き起こり、正に台風のごときものだった。


 まあ当たり前だ。殺し名の「石凪」が同じく殺し名の「零崎」に『成った』のだから。


 その騒動の中を潜り抜け、立ち塞がるものを破壊し、殺戮の嵐を作り上げながら僕を迎えに来てくれたのが無識兄さんだった。(他に双識兄さんや軋識兄さんもその争いに参加したらしいが)


 無識兄さん。零崎無識。


 彼は僕の恩人であり師匠でありお兄さんであり先輩であり、そして憧れである。


 僕の世界は無識兄さんを中心に回っている。地球なんて知ったことか。


 無識兄さん。彼は「最狂の殺人鬼」として通っている。なぜかというと無識兄さんは鉄の意志を持って一般人を殺したことが無いからだ。にもかかわらず、その殺した数は軋識兄さんとタメを張っていると言われている。


 それはなぜか。


 彼、無識兄さんは殺し名、呪い名を零崎の中に留まらず、殺し名・呪い名の中で最も殺した殺人鬼なのだ。だから狂っているということで「最狂の殺人鬼」と言われている。他にもいろいろと呼ばれている。「絶対の主導権(マイオンリー)」や「黒き紙(ブラックベーパー)」等々。


 無識兄さんがここまで名を上げた原因は三年前らしい。らしいというのは、そのとき僕は地下室に閉じ込められていたからそのことを実際に見聞きしたわけではない。


 しかしやったことの凄まじさは判る。彼は、無識兄さんは。


 殺し名の一つを一人で壊滅させたのだ。


 詳しいことはここでは語らない。ただこれがすごいことだとはわかるだろう。
 

 ――――――――――。
 

 あと、一つ言っておこう。それは僕の得物だ。僕は零崎一賊としては珍しく、常に二つの武器を持っている。(通常は一つか、人識兄さんのように沢山持っている)


 一つは『消化警報デリートミュージック


 これは農家の人が使うような鎌である。もちろん使用方法は草を切ることではなく人殺しのためのものである。


 僕が石凪だったころのなごりがこの兇器に現れていて、なんとなく目に付いたら欲しくなった。


 もう一つは『富国強兵デスリッチ


 これは家庭菜園で使うようなスコップである。もちろんただのスコップでなくて、土をすくう所が鋭利な刃物になっている。


 これはきっと無意識に無識兄さんの影響が移ってしまったのであろう。


 ちなみにこれらは華織姉さんが収集していた武器の中から貰ったものである。誰の作なのかは知らない。


 そして僕自身は『危機機器ライフソルジャー 』と呼ばれている。


 ちなみに、なんでなのか知らないんだけど潤さんは僕のことを「じーやん」と呼ぶ。前からそれは止めてくれと言っているに関わらず、だ。


 潤さんは苗字で呼ぶと怒るのに。


 なんかずるい。


 ……………………。


 というわけで僕の自己紹介は終わり。なぜならもう潤さんの指定した家――つまり、いーさんの家――が目に見えるところにまで来たからだ。


「――ふー、疲れた」


 別に大して疲れたわけではないのだが、まあそれを言うのが『普通』というものだ。


 普通――――それは僕の手に届かないものだが。


「……それにしても、いつ見たってオンボロしてるよなぁ」


 こんなところに住んでる人の考えていることが判らない。まあ、人の家に居候させてもらっている身で言うことではないが。


 それにしても。


「潤さんはなんで僕を呼んだのかな……」


 いろいろと薄ら寒い想像が頭に浮かぶが、首を振ってそれを忘れる。


「――それにいーさんも一緒みたいだし……」


 あれ?それは安全に繋がるのか?聞いた話ではあの人、近くにいる人を『悪』なしで殺してしまう人間だと聞いたのだけど?


 しかも人間的にもおかしいし。


 この前遊びに行ったとき、メイド服を前に真剣な顔をしてたからな。


 しかも「――今はまだ……」とか「――それよりもこっち……」とかぶつぶつ呟きながら違う服を取り出してきたし…………あのときは本当にマジでびびった。


 僕の周りってこんな人達ばっかなのかな…………。はぁ。


「――そんじゃあ、まあ行きましょ。早く行かないと怒鳴られる」


 僕はそう言うと足を一歩前に出した。


 否――出そうとした。が、できなかった。


 不審に思い、足元を見るとちょうど僕の足元の地面がぽっかりと口を開けている。一瞬しか見てなかったが、その中は黒と言うものを凝縮して闇と為し、さらに凝縮して暗黒にした感じ。要するに全く見えない暗さである。


「――ッな!?」


 手をどたばたしてみるも何もならない。ただ僕が疲れただけだった。


 僕の感覚では二秒ほどたったころ。僕はその穴に吸い込まれた。「びゅほ」という音を立てて。


「エェェェェェェェェェェ!?なんでだなんだァァァァァァァァァ!?というか『びゅほ』ってなんじゃァァァァ――――――――――!?」


 絶叫しながら落ちていく僕。頭の中には「穴の上に立ってたのになんですぐに落ちなかったんだろう」ということで一杯だった…………。













「くっくっくっくっく――」


 その声は突然現れた。


 声に対して『現れた』というのもおかしな表現だが、とにかく声が先程までがいた場所から響いた。


 不可思議なことにそれは声しか出ず、姿形はまったくない。しかし、声の高さ、大きさから幼い少年の声に聞こえ、それが先程の笑い声と見事にミスマッチングしている。


「零崎無識に零崎華織、そして零崎――彼等はそんな物語を築いてくれるのかな?……っくっくっく。零崎無識はなかなかに面白い物語だったが、彼の弟はどうだろうな。くくく――」


 しばらくの間、その声は漂っていたが、しばらくすると消え去った……。




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