襲来(醜来)
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罪悪は二つある。
殺すことと生むことだ。
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「ふーむ?」
十分ほど歩いたであろうか。すると向こうからも歩いていたようで、遠かった距離(だいたい歩いて二十分ほどの距離)が無くなった。
一応隠れてるつもりのようだが全く気配を隠しきれてない。一人だけ気配が少なく、読み取りにくい奴もいるが、それも少ないだけであってすぐにわかってしまう。
こうまであからさまだと逆に困るなあ。まあこの人たちは僕が気付いてることを気付いてないんだろうけど。
僕はしばらくの間、首を傾げていたが、ま、それにも飽きたので歩き出した。
すると木の陰から男が飛び出してきた。
「止まれ!俺たちはこの山を手中に治めるクム山賊団だ!!」
「……………………はあ」
いきなり山賊団だと言われてもいまいちピンとこない。そもそもこの山を治めてるといってもたかがその程度?という気がしないでもないのだが。
しかし、僕のこの返答は相手の気に召さなかったらしく、額に青皺を寄せながら、さらに大きい声で怒鳴った。
「ここに有り金全部置いていけ!抵抗しなかったら命だけは助けてやる!」
そう言って男はふんぞり返った。
「なんだかなぁ…………」
なんか対応に困る相手である。いまいち本気にもなれない。とりあえず今の状況だけ言っておくか。
「無い」
「――は?」
「だから有り金なんか持ってない。紙なら持ってるけど」
僕がそう言っても相手は信じなかったようで、「そうか。そんなに殺されたいのか。命だけは助けてやろうと思ったが、しかたない。野郎ども!やっちまえ!!」と言った。人の言うことを信じないとは心の狭い奴め。
すると、「おう!」掛け声と共に出るわ出るわ。山賊風の格好(そんなものがあるのか知らないが)をして、これまたお約束のような大きめの反り返った刀を手に手に持っている。
おいおい。まさかここはファンタジーか?しかも童話の。ここまでお約束な展開をするとは。
「うおおおおおおお!!」という怒鳴り声を上げながら総勢二十人ほどの山賊達が襲い掛かってきた。
この様子を見た先程の男(どうやらこいつが頭らしい。そして一番気配を消せていたのもこいつだろう)は後ろを向いてすたすた歩き始めた。もちろん普通はこれが正しい。二十人もの山賊に襲いかかられて生きていられるはずも無いからだ。
しかし、それは普通の時のことだった。
「何帰ろうとしてるの?」
「な――!?」
後ろを振り向いた山賊頭は絶句した。なぜならそこには僕がいたからだ。山賊に襲われているはずの。
「もう少しここにいてよ。僕はこれからさ、
皆殺しをするんだから。
逃げられると面倒だから止めてくれる?」
僕が笑いながら言うと、そいつは青白い顔になりながら後ろに下がりつつも、まだ叫ぶ気力があったようで、
「はやくこいつを殺せ!」
と怒鳴った。
いきなり僕が消えたことで目を白黒させていた山賊たちは慌ててこちらを向いてこっちに攻めてくる。それにしても、だ。
「いやはや。なにか特殊能力でもあるのではないかと思ってたけどとんだ期待はずれだったみたいだねー」
まあ、こいつらがそれを持ってなかっただけかもしれないけど。次にはそれがあったらいいな。それじゃあ、そんじゃあ。
「始めましょ? 零崎を」
僕は懐から愛用の兇器――『消化警報(デリートミュージック)』と『富国強兵(デスリッチ)』を取り出して見栄を切った。
そして総勢二十人ほどの山賊たちの中に入っていく。いつもの如く、常に行っていることを……行った。
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
しばらくすると、ここで立っているのは僕と山賊の頭だけになった。
山賊の頭はここまでかというほど顔を蒼くさせていたが、しかし、まだ彼の顔には怯みや怯えや恐怖といったものはまったく顔に浮かんでいなかった。
まるで奥の手を隠してるかのように。
「てめえ、よくも俺のかわいい子分達を……」
あれをかわいいと言うのはちょっと無理があるぞ。
「どうやらお前は念を覚えているわけでは無いようだな……だったら勝てる!」
「念?」
僕はそれを聞いて何かが頭に浮かんで来そうになったが、その前に山賊はなにやら唸り始めた。
「うおおおおおおお」
な、なんだ、この嫌な威圧感は。
まるで体中の毛が逆立っているかのような気がする。ここまで嫌な威圧感――。
「でも、それだけじゃあね」
「貴様!なぜ立っていられる!?」
頭は悲鳴を漏らしながら、後ずさった。それを歩いて追いかける僕。
「たしかに嫌な気分だけど、ま、双識兄さんの変態オーラよりもマシだよ」
「ううううううううう」
ついに山賊の頭は顔だけでなく、体全体で恐怖していた。畏怖していた。怯えていた。
でも、だーめ。
「抜き差し、刺し抜き、忍び貫く。泥棒の如く奪って、死神の如く殺してやるよ」
僕は高らかに宣言すると、山賊の頭の首に二つの得物を交差させながら入れ、そして一気に抜いた。
「――ま、こんなものかな」
もう、ここに立っているのは僕一人だった。うーんと、それじゃあ、こうしよう。
「死体漁りでもしましょうかね」
僕は静かに呟くと死体漁りを始めた。
いや、これは別に僕がお金にがめついわけではなく、ここが異世界だとしたら先立つものが必要でありまして。
やっぱり世の中、金で動いてるわけだから、お金はできるだけもっていた方がいいでしょ? それにここの近くとかの情報も知っておきたいし。
「あ、しまった。一人ぐらい生かしておいて、いろいろと聞けばよかった」
いまさら後の祭り。あう、と自分で言いながら尚、死体漁りを続ける。
すると、先程の山賊の頭の懐からあるものが滑り落ちてきた。
大きさはテレホンカードぐらい。そして、形もカードのようである。
「……?なんだこれ」
かがんで、それを手にとり、裏返してみると驚愕が僕を襲った。
「こ、これって!――ハンター証!?」
そう。僕が手にしていたのはハンター証だった。
このとき、先程の男が言った、『念』という言葉を思い出す。
「ここってハンター世界!?」
僕は思わず叫んでしまった。
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