逃亡(盗亡)







はじめまして、こんにちは。

また会わない日を。






 後で思い返してみると、あのときのあの行動は駄目な行動だったなぁと思い出すこと、甚だしかった。もちろん、後でどんなに反省しても、起こったことは覆らないのだが。


 僕は自分のことを一人前だとは思っていない。一人前とは、無識兄さんを基準にしているのだが、あの無識兄さんを見ていてそんなことが思えるものか。たとえ、十分の一であってもその基準に達しているかどうか……。無識兄さんに比べたら僕はその辺の路傍の石だろう。


 もちろん、僕は無識兄さんが僕に対してそんなこと考えているはずがないと思っているけど(無識兄さんほど家族を愛している、大好きでいる人はいないからだ。いや、この場合、『人』ではなく『鬼』か)。


 それでも、自分で定めた一人前には達してはいないからといっても、今の僕だって少しは腕も立ち、判断能力もあり、頭もいい方だと思っていた。


 ――しかし、この判断は今であれば赤面してしまうような薄っぺらい自信であったのだが……。


 腕が立つ、これはまあいいだろう。でも、判断能力がある、というのは間違いだった。


 突発的な事態の前に立つと、僕は冷静とか、理性とかそういうものが飛んでいってしまったからだ。この場合の突発的な事態とは、旅団を見つける、ということだった。


 たぶん、あのとき僕の頭は一つのことでいっぱいだったに違いない。それでないと、いつもの僕の毎回の行動、毎回の思考通路、思考速度から考えてみると、おかしいこと、この上ないからだ。


 このとき、僕は逃亡した。


 この上ない逃亡だった。旅団を見た瞬間、旅団というワードを、頭で作っておいた方程式に入れたその瞬間、気が付けば、僕の足はこの店から飛び出していた。


 その方程式はただ一つ。重要なマンガのキャラクターを、ひいては小説のキャラクターを守ることはあっても、殺しては駄目だという、兄の言葉だった。


 旅団は「敵」ではあっても重要なキャラであることは確かだった。だから逃げるしかなかった。


 結論。僕は最悪の一歩手前の行動を、地雷を踏んでしまった。旅団がそんな不審な僕を、旅団の方を見てすぐに店から飛び出した僕をほおって置くわけがなかったからだ。


 彼らはすぐに行動した。僕を囲むという行動に。


 店を出た瞬間、店から足を出して0,5秒後に僕は囲まれていた。そこにいたのは、旅団団長クロロ、以下三名。マチ、フィンクス、フェイタンだった。


「お前、何か俺たちについて知ってるな?」


 旅団の頭、クロロが言った。とても重圧的に高圧的に、口を開いた。


 やばいやばいやばいやばい!このままでは零崎を始めてしまう!そうなっては――そうなってしまってはいけない!!


 またしても、僕はこの場から逃走しようとした。


「な――逃げるな!」


 早、くこ、の場から立ち、去らな、いと。僕の頭はこれで支配されてしまっていた。


 このままだと、これ以上殺意を抑えられない。


「お前、何してるね!」


 フェイタンが何か叫んでいるようだったが、そんなことは気にも留めず、気負いもせず、ごく普通に包囲網から抜け去り、自分でもわけがわからない方向に向かって走り去った。












「な、なんだったんだ……?」


 フィンクスは呆然とした風に、目を丸くさせながら言った。


 ここには先程の旅団メンバー、そしてなんだなんだと集まった野次馬がいるのみであった。先程までいたはいない。旅団のメンバーによる包囲を抜けて逃走したのだ。


「さあな。――だがこれではっきりした。奴は俺たちのことをはっきりと知っている。俺たちの強さというものをな」


 そして奴も強い、とクロロは言った。そして、こうも言った。


 ――面白そうな奴だ。旅団に入れてみるか――、と。


 この瞬間からは旅団から追われることとなった。の起こした行動と、結果と、ほんの少しの勘違いによって。つまり、自業自得というものであったが、それでも同情を禁じえない状況だった。


 ――旅団から逃亡する。このことが、旅団からしたら、ほとんどありえないことだというのに(からしてみれば、逃亡できるのは普通のことだったが。伊達に逃げの曲識に、逃走の仕方を学んでいなかった)。必然的に、僕は旅団からマークされるようになった。


 旅団を知り、旅団から逃げ去った男。――そして、次期メンバー候補、と。








「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」


 はあ、はあ、はぁー。深い溜息をついて、僕は座り込んだ。


 ここは、僕がトリップしたときの山のふもと。旅団に囲まれた僕は一気にここまで走ってきたのだった。


「あー、あぶねえ。もう少しで殺すところだった……」


 額の汗を拭いながらそう、独白する。あのまま町にいたら、確実に誰かを殺していたことだろう。


「――――――それで、殺してたら、確実に追いつかれてたしな……」


 始めの逃げに関しては、自分のミスだと思うが、次の逃亡に関してはいい出来だと自分で思った。


 あそこで逃げてないと、取り返しのつかない事態になっていたことは明白だったからだった。


「僕の生命の安全はわからないけど、旅団の命の安全も……わからないからね――」


 それぐらいには自信も自尊心もある。僕が勝てないと思うのは兄さんだけだ――。


 ――――――――。


 などと、ぶつぶつ呟いていることが悪かったのか、それとも今日、この時間だけ特別におかしかったのか、どちらのせいなのかはわからない。しかし、またもや僕は大失敗をおかしてしまった。


 それは近づいてくる人の気配に気付けなかったことだ。ああ、もう。この日を僕は何度反省すればいいのだろうか。


 そう、あいつが来たのだ。目の前に。


「主く――――ぐき」という音がして首がずれるサイン。


「――――――――あ」と、呟きながら得物をしまう僕。


 そう、あの「ござる武士」、サインがやって来ていたのだ。きっと、お主は主君だからいつも一緒にいるのでござる、とか言って。そう言いたくて僕を追いかけたのだろう。いきなり店からでた僕を追いかけてここまで走ってきたのだろう。旅団にもできなかったことを。


 しかし、もう永遠にそれを言えなくなってしまった。本当に言うことがあったのかどうかもわからなくなってしまった。


 そう、僕が殺してしまったのだ。何の未練もなく、何の感慨もなく、何の後悔もなく、ただあるがままのように。


「あちゃー、うーん――殺しちゃったか……どうしよ――えッ!?」


 驚きのあまり、僕はしまっておいた得物をまた取り出してしまった。そう、ありえないことが起こったのだ。


 サインの体が再生していた。



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