第一章 ハンター会場入る
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叩いて叩いて引き伸ばせ。
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「ふう……ここまで来るのは長かったなぁ」
「そうでござるね」
僕は平凡な料理店の前で感動に打ちひしがれながら、ひっそりと呟いた。それにサインが相槌を打つ。
ここはハンター試験会場。何十万人という人々がハンター証(ライセンス)を手に入れるために目指す、試験会場。それがここである。
いや、正確には、ハンター試験会場の入り口がここ、どこからどう見ても平凡な定食屋であった。……うん。何度見てもここがハンター試験会場には見えない。僕だって原作を知っていなければ、驚きのあまり叫んでいたかもしれない。
サインはどうかというと、彼女には既にここがハンター試験会場であると(つまり、平凡な定食屋が)言っていたので驚きはないようだ。
……何も言わないでおいて、驚かせておいたほうがよかったかな?なんか面白くない。
「それで……」
サインが重々しそうに口を開いた。顔を見ると渋面な顔つきになっている。
「やっぱり念能力は禁止でござるか?」
「うん。駄目」
「やっぱりさっぱりどんなにでもござるか?」
「やっぱりさっぱりどんなに言っても。理由なら説明したでしょ?ハンター試験には念なんか全く知らない人がたくさんいるんだって。万が一そんな人たちに念を教えたらだめでしょうが」
「拙者にはが拙者を苛めてるようにしか見えないのでござるが……」
「まあそれもある」
「あるのでござるかぁ……」
サインは打ち崩れるように地面に手をついた。微かに泣き声まで聞こえてくる。はぁ……。
「あのねえ。他の皆は念無しで受験してるの。ずるなんかしてないの」
「でもの言うには念を使う輩もいるんでござろう……?」
恐る恐るといった風にサインは尋ねてきた。つまり身を守る手段がないということなのだろう。
「君は不老不死だろう?」
「不老不死でも痛いでござる!」
「まあそれぐらい我慢しなよ。見てごらんよ!僕なんか纏すらしてないんだぞ!しかも不老不死なんかじゃないし」
「が纏してないのはそれが念能力の制約だからでござる!それにいざとなったら念を発動するのでござろう!?」
「もちろんさ。言ったろ?『命の危険のときは念を使ってもいい』って。君には命の危険はないけど」
「…………主君。拙者で遊んでるでござるな?」
「もちのろん」
「うわああん」
ついにサインは大泣きしてしまった。鼻水を撒き散らし、涎を流しだし、涙を滝のごとく落としている。
「近所迷惑になるからやめてあげて?」
「ばれのぜいだとおぼっでるでごだるー!(だれのせいだと思ってるでござるー!)」
「あははー。なんて言ってるかわかんないやー。だから無視」
「ぼんばー!(そんなー!)」
まあいいや。ほっとこう。いつか泣き止むだろう。なんか言うのも面倒くさい。
……なんかこの世界に来てから妙に僕自身が薄情になったような気がする。これはきっと、全てサインが悪いんだろうな!うん。そうしよう。サインのせいにしておこう。
さてと。もう僕の頭は切り替えられている。頭には、早く店の中に入ってハンター試験を受けたいという欲求でいっぱいだ。よく考えてみたらハンター試験をするというのはあまりメリットが無いような気がする。でも、僕は「せっかくこんな世界に来たんだからハンター試験もやっておこう」というミーハー心でやっているのだろう。真剣に試験を受けようとしていた人達に謝っておこう。ごめんなさい。
「それじゃあ行こうか、サイン」
「…………いろいろと訊きたいこともあるでござるが全て拙者の胸の中にしまっておくでござる」
「それでいいのさ。将来長生きできるよ」
「……………………」
あれ?今度は黙り込んだぞ?うん?あれ?
うーん……ま、いっか。
僕は自分で完結させて、それから店の中に入った。
中は思っていたより繁盛している。中身もマンガと一緒だ。このままマンガ通りにことが進んでくれたらいいのになあ、と僕は一人考えていた。
すると、どうやら店主が僕たちに気付いたようで、「いらっしぇーい」と叫んできた。
…………気になったことが一つ――といっても探せばいくらでもあるがまあ、それは置いといて――ある。それは主人の「ぇ」だ!普通「ぁ」だろう!こんな小さいところにこんな不条理なものが普通あるものなのか?
皆さんも言ってみて欲しい。「いらっしぇーい」と「いらっしゃーい」 どちらの方が言いやすいのか。どちらの方が言われて気持ちいいのか。
……まあ戯言だけどね。
「ステーキ定食二人前下さい」
僕が言うと店長はぴくっと身体を震わした。……これでは素人でもわかる気がするのだが。この人を選んだのは人選ミスではないのか?
「焼き加減は?」
「弱火でじっくりとをお願いするでござる」
サインが言うと店長は「へーい」と言って顔を背けた。アルバイト(たぶんそうだろう)さんが「奥の部屋にどうぞ」と言って部屋を示す。僕たちはそれに従って歩いていった。
部屋に入ると、中には二人前のステーキ定食が置かれてあった。
「気になったんだけどさ」
「どうしたんでござる?」
「これって注文が来たときに、急いで誰かが人数分置くのかな」
「……………………。突っ込みはしてはいけないんじゃないかと思うでござる」
「ま、そうだね」
所詮ここはマンガの世界。突っ込みどころ満載のところ。いちいち突っ込んでたら日が暮れるどころか一生がなくなるんだろう。
とりあえず僕たちはステーキ定食を食べました。
おいしかったです。
小学生の作文のような感想を頭に思い浮かべながら、ステーキを租借し、飲み込んだ。
「そういえばお金って払わなきゃいけないのでござるか?」
「別にいいんじゃない?僕は払いたくないな。無駄なお金は使いたくない」
「…………主君は妙なところでけちんぼでござるねえ」
呆れたように呟いたサインを睨みつける。しかし、サインはどこ吹く風で、口笛まで吹いている。どうやら先程の仕返しのようだった。…………ちゃちい仕返しだな、おい。
こちらこそ呆れたような視線でもって相手を攻撃すると、僕は瞳を閉じて静かに待った。
――と。
ちん、という音が鳴ってドアが開く。どうやらついたようだった。
ハンター試験第一試験会場に。
サインを見やると口元に、本当に嬉しそうな笑みを浮かべている。この口だけを見ていると潤さんに似ているなとも思う。しかし、それとは全く違うことも知っている。サインが念を封じられたら、そこらへんのサラリーマンと同じくらいの強さしかないのだから。
――あ、いまでは中学野球のキャッチャーぐらいには勝てるかな?
とかなんとかいう思いを乗せながら。エレベーターは扉を閉じ、上へと登っていった。
「――っておいおいおい!降りるぞ!降りる気満々だぞ!!閉まるの速すぎるわボケェェェ!!」
「ウワァァァァァァァ!!見得を張ってたら降りれなかったでござるぅぅぅぅー!」
――いろんな思いと僕らを乗せてエレベーターは上っていった。
ハンター試験会場では。
「…………あいつら何しにきてんだ?」
新人かと注意を向けたトンパ、プレートを渡そうとしていたマーメン、その他何名かが呆然と立っていた。
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