TRICK<表>裏

全てが計画の内さ。

「これはどういう状況なんだろうね?」
 暗い部屋の中。テレビだけが光っている。テレビと言っても、一般家庭にあるようなものではなく、例えるならば監視システムのようなものだった。
 否、ような、ではなくそのものであるといってもいい。
 事実、この部屋の主は画面の向こうを監視していた。
「……」
 部屋の中には焼き菓子を砕く音が響く。そして、無言で画面を見る男、リッポー。
 彼は画面から聞こえる声を耳にした。
「まあ……でも――」
 画面の男は迷うように周りを見渡すと、清々しい顔つきになった。
 その様子をリッポーは黙って見ている。
(サトツは注意するように言っていたが……)
 リッポーは心の中で呟く。
(オレにはわからんね。こいつがそんなに注意するべきやつか?)
 こいつよりも44番の方が絶対に危険視するべきだろう。これだけは確実に言える。
「サインがここにいないのには困ったな……」
 首を傾げながら、男は静かに呟いている。サインというのは406番のことだろうか。試験生のリストをぱらぱらめくりながら、リッポーは考えた。
「この状況から考えたら、主人公組にいるはずだしなあ」
 眉をひそめたが、すぐにそれを解いた。試験生の中にはときどき意味不明の言葉を呟く者がいるものだ。リッポーはそう思った。
 じっと、男は壁の文字を見続けていたかと思うと、ぽつりと独り言を呟く。
「これは、ずっと戦い続ける道ということか?」
「その通り」
 リッポーは男の言葉に沿うように、既に録音していたカセットを起動させる。
 すると、画面の中から、録音した音声が流れ始めた。
「このタワーには幾通りものルートが用意されており、それぞれクリア条件が異なるのだ。
 そこは自己保身の道。これから何十人もの刺客から自らの身を守り、無事に下まで降りることである。自己保身のしかたは自由。取引を行ってもいいし、殺してしまっても構わない。とにかく、下まで降りることだ。健闘を祈る」
 リッポーはニヤリと口が歪むのを止められなかった。
 この道は他の道と比べて、最も実力が備わっていなければ突破できない道だ。プロハンターでも難しい。なぜそんな道を作ったかというと……単に囚人が余りに余っていたからだ。
 年々増えていく刑務所の囚人問題を考えると、このハンター試験はあまりにも適当と言えた。
 簡単に死んでいくのである。囚人が。
 そして、囚人の中で、最も服役期間が長い囚人をこの道に入れている。当初の予定ではヒソカをここに入れるつもりだったのだが……
(サトツの言っていることを確かめるいいチャンスだからね――)
 ニタニタと、リッポーは笑う。しかし、その表情はすぐに凍り付くこととなった。
「僕にとってはおつらえむきなわけだねえ」
 その言葉を男が呟いた後、いきなり空気が変わった。
(ぞくりッ)
 リッポーの背中に冷や汗が流れ落ちる。そして、リッポーの目の前で、男は笑い声を上げた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
 それは、人間ではなく、鬼の笑い声にリッポーは聞こえた。


「これは――これは一体なんなんだ!」
 リッポーは目の前の状況に怒鳴らずにはいられなかった。
 次々と死んでいく囚人達。彼等は念能力も持っているのに、まったく傷一つ付けることが敵わないのだ。ヒソカでさえも傷を負ったというのに……だ。
 彼はヒソカが男を自分よりも強いと認めたことを知らない。だが、それでもこいつがただ者では無いことはわかった。
 いままで久しく感じることが無かった恐怖――それをリッポーは思い出していた。
 そして、彼と共にいたサインと言う奴。
 そいつもまた、いままで彼が感じていた現実を覆す存在であった。むしろ、サインの方がその感触は高かったに違いない。
「は、は、ははははは」
 リッポーは笑った。笑うしかないではないか。
「いいだろう。現実が違うなら、自分を現実に合わせればいい。こういう奴がいることを考えておけばいいね」
 リッポーは平たく言うと、開き直っていた。
 その強さが、確かにリッポーにはあった。



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