TRICK<裏>1

見知らぬ世界。
なんじゃそりゃ。

「ぐすん……ぐすん……」
「おいおい、泣きやめって……な?」
「ううう……拙者、主君と三日も離れるなんて、ぐすん、なかったでござるぅ……」
「あーわかったわかった! 飴でも舐めとけ」
 こくんと頷いて、サインはちゅびちゅびと舐め始めた。その様子に安堵の表情をを浮かべるレオリオ。
 飴を舐めることで少し落ち着いたサインは、ちょっと前の過去を思い出した。
 隠し扉を一斉に降りたサイン達は、ほとんど全員が同じ場所に着いた。ただ、他識だけはどうやら違う部屋に行ってしまったらしく、どんなに探しても見つからなかった。
 ここでサインはやっと気付く。
 どうやら自分は他識と離れてしまったようだと。別々に試験を受ける羽目になってしまったのだと。
 それに気付いたとたん、サインは泣き出してしまった。周りは彼女の突然の行動に呆気にとられてしまう。
 そこでレオリオはまず、サインを宥め始めたのだった。
「これはなかなかおいしい飴でござるな! 人生のベスト100ぐらいには入るでござるよ! レオリオ」
「……それはどうもありがとうな」
 呆れた様子のレオリオを後目に、サインは満面の笑顔で飴を舐めていた。微笑ましい様子である。
「それで、この部屋はなんなんでござるか? 出口もないでござるし、圧迫感漂う場所でござるねー」
「どうやら、私たちは多数決の道とやらをクリアしなければいけないようだ」
「タスウケツ?」
「ほら、サインもこれを読んでくれ」
 クラピカに促されて、サインは壁に埋め込まれた板を眺め見た。
「ほうほう。なるほどでござるねー……主君が言っていた通りでござる」
「ん? 何か言ったのか? サイン」
「いやいや、何も言ってないでござるよ」
 大きく手を振って否定すると、キルアはそうかと頷いた。
「それで、拙者はこれを腕にはめればいいでござるか?」
 タイマーを手にとって訪ねると、クラピカは頷いた。
「ああ。これを皆がつけないと動けないらしい。サインが泣いている間に放送があったよ」
 サインはその言葉に、皆の腕を見ると皆腕にタイマーをつけていた。どうやら付けていないのはサインだけであったらしい。
「それは……ゴメンでござる。拙者のせいで迷惑を……」
「いや、それぐらい。いいさ」
「そんなことを言いながら後で計画的な犯行を――!」
「何を言ってるんだ!?」
「いや、昼ドラの展開だったらそうでござるなーと」
 けらけら笑っているサインに、クラピカ達は溜息をついた。鳴いたカラスがもう笑う、の心境である。
 サインがタイマーをつけると、ゴゴゴという音を伴って壁の一部が上がった。
「なるほど。五人揃ってタイマーをはめると」
「ドアが現れる仕掛けか」
 納得した表情になるクラピカとレオリオ。
 ドアまで近づくと、そこにはすぐに多数決があった。
「もうここから多数決か。こんなもん、答えはきまってんのにな」
 ピ、という音がすると、ドアが開く。多数決の場所には――5対0となっていた。
「……ここからして違うでござるな。そもそもトンバ……トンダ? トンナ? ……まあ何でもいいでござる。そいつがいないという時点でそうでござるな――」
「さっきから何をぶつぶつと呟いてるんだ? まだハルトを引きずってるのか?」
「い、いやそんなことないでござるよ?」
 酷く慌てた様子のサインにキルアは不可解そうな顔をしたが、すぐに前を向いて歩き出した。
 キルアが歩いていった後、小さく呟いた言葉――主君に止められでござるからなあ――その言葉は誰にも聞こえなかった。
「おーい! 早く来いよ!」
「わかったでござる!」
 サインもまた歩いた。といっても数歩の場所であるが。


「――それではこの勝負を受けるか否か!! 採決されよ!! 受けるなら○、受けぬなら×を押されよ!!」
 ドアを開けてからしばらくすると、大きな広間の中にサイン達は辿り着いた。そこにはフードを被った怪しげな集団がおり、その中の一人がフードを脱ぎ去ってサイン達に話しかけてきた。
 何から何まで主君が言ったとおりになっている――そんなことをサインは考えた。
「よかろう。こちらの一番手はオレだ! さあ、そちらも選ばれよ!」
 サインは男の言葉と同時に前に出た。その様子にレオリオが驚いた様子をする。
 サインは振り返ると、微笑みを作った。それはまるでひまわりのような――
「まずは拙者が行くでござるよ。それが妥当な道筋らしいでござるからなあ」
「だが、相手は危なそうだぞ? お前、格闘が得意な訳じゃねえんだろ?」
 一次試験を思い出して言うレオリオの言葉に、サインはふわりとした笑みを浮かべた。
「確かに格闘は得意ではないでござる。でも、戦いはまた別でござるよ? さすがに主君には全く及ばないでござるけど……」
 軽やかなリズムで歩み寄るサインを見て、レオリオは眉を寄せた。
「だが、大丈夫か? あいつ、まったく体力無かったじゃねえか」
 一次試験を知るレオリオの言葉は全くもって正当なる言葉だった。しかし――
「多分大丈夫だよ。きっと」
「きっとって――そんなんじゃ駄目だろうが。もしかしたら殺されるかもしれないんだぞ!?」
「うん。でも、殺されないような気がするんだ」
 呟くゴンを見て、レオリオは鼻を鳴らす。
「勘か?」
「それもあるし……キルアの言っていることが正しいならさ」
「キルア?」
 レオリオは驚いてキルアを見るが、キルアは真剣そうな表情を浮かべて見入っている。「しゃーねーなー」と呟きながら頭を掻き、彼も前を真剣になって見た。

「さて。勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する」
 場が固まった。レオリオ達は真剣そうに見ている。
 対して、サインはとぼけたような表情を浮かべていた。まるで、自分は死ぬことが無いとでも言ってそうに。
「一方が負けを認めるか、または死ぬかするまで戦おう!!」
「あー、いいでござるよ。というかやれる物ならやってみろでござるよ」
 ほれほれといった風に手を動かすサインに、男はぴくぴくと眉を動かす。
「そ、その覚悟見事! それでは勝負!!」
 男は地面を蹴り上げサインに肉這した。そして、あっけに取られているサインの喉目掛けて腕が動く――
「――――ッ!」
「これで貴様は負けを認められないわけだ」
「おい! サイン!」
 サインは血を吐き出しながら地面にのたうち回る。その様子を、レオリオは鬼気迫る表情で見つめていた。
「ふふふ。これで三日間ほどぐらいは拷問させてもら――」
「それは困るでござる」
「!?」
 男が、慌てて声がした方向に顔を向けると、そこには怪我一つないサインの姿があった。地面に目をやるも、そこには血一つもない。
「演技でもやったというのか? だが……」
「そんなのやってないでござるよ。ただ、再生しただけでござる」
 あっけらんと言うサインに、男は眉を寄せた。
「再生?」
「そうでござる――勝負に勝つためには。まず、相手の精神を揺さぶるのがちょうどいいことでござるな。主君が言っていたことでござる。最も、主君はそんなこと必要なく強いでござるけどな」
「貴様は何を言っている? 時間稼ぎでもしているつもりか?」
「まさか。そんなことをすれば喜ぶのはそっちでござるよ。というか、こうやって喋っている間に攻撃すればいいでござるのにねえ……馬鹿正直? 主君ならさすがはマンガとでもいうでござろうか」
「さっきから何をぶつぶつと言ってる――」
「まあ、論より証拠。そこで黙って見てるでござる」
 サインはにっこりと笑うと、腰から刀を抜き、そして――腹に突き刺した。
「な――!」
 一同は呆気にとられる。なんせ、いきなり自殺としか思えない行動をとったのだ。げんに、大量の血が止めどなく流れているではないか。
「さ、サイン! てめえ、一体何を――」
「まさか自分で死ぬ? 何を考えていたんだ?」
 レオリオは怒鳴り、クラピカは驚きで固まり、ゴンは真剣に見つめ、そしてキルアは何かを確認するかのように見ていた。
 男は何か得体の知れない気分を感じていた。
「言ったい何をこいつは――!」
 今度こそ、本当に場が凍った。レオリオも、誰もかれも動かない。ただただ己が見ているものを信じることが出来ない様子になっている。
「ば、馬鹿な……」
 誰が言ったものか、誰にも判断がつかなかった。そんなものにかまける余裕は無い。
 彼等の視線はサインに向いていた。正確にはサインの成れの果てに。
 そしてもっと言えばサインが流した血を。彼等は見ていた。ただただ見ていた。
 サインの血が次々とサインの体へと戻っていく様子を。ただただ彼等は――見ていた。



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