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悪夢を見るのが楽しみです。
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「な……」
場は沈黙に支配されていた。囚人達も、ゴンも、キルアも、クラピカも、レオリオも。
ただただ静かに血が戻る音のみが聞こえてくる。静かに、静かに、それはサインの腹へと戻っていった。
「――何度体験してもこれは慣れないでござるなあ……」
そして、ぽつっとサインは呟く。
「……!」
サインの声を聞いた対戦者は、じりっじりっと後ずさり始めた。顔には恐怖が張り付いており、その対象はいわずがもがなである。
「さて……これで少しでも戦意を無くしていただけると嬉しいでござるよ。拙者は見ての通り、死なないでござるからなあ」
退く男に合わせて、サインもまた少しずつ男ににじり寄る。男の表情は青を通り越して紫に近くなっていった。
「もしまだやるなら、拙者としては手段を――」
「まいった! オレの負けだ! だから――」
男はサインの言葉を聞くと、すぐに叫んだ。後に続く言葉は、口が絡まって言葉に出せない。
恐怖。得体が知れない。
そして……化け物。
それを一度に彼は味わったのだった。
「ふむ。よかったでござる。拙者、戦闘能力はあまり使えないでござるからなあ」
「…………」
「それでは帰らせてもらうでござるよ?」
サインはにこやかに言うと、元の場所に戻った。
いろいろと残るものがあった試合ではあったが、とりあえず……
一戦目。サイン完勝。
「いやー、疲れたでござるよー。いやはや、まいったまいった」
けらけらと笑いながら戻ってきたサイン。もちろんのこと、レオリオ達は問いつめた。
「てめえ、あれはなんだよ!」
「あれ? どのあれでござるか? 主語をはっきりとお願いするでござる」
「あの! 血が元に戻る! 現象だよ!」
怒気を込めてレオリオが怒鳴ると、サインはああと頷いた。
「拙者は不老不死なのでござるよー。……あれ? ゴンとかキルアからは聞いてないでござるか?」
「何ッ!? ゴン! お前、知ってたのか!?」
「いや、僕達も聞いたけどさ……まさか本当だとは思わなくて」
てへへと頭を掻くゴンを見て、レオリオは毒気を抜かれた。うんうんとサインは頷く。
「そうでござろうな。確かに、こういうのは実物を見なければいけないでござるものな。百聞は一見し如かずということでござるか! いや、天晴れでござる!」
「……何が?」
キルアがおずおずと突っ込むが、サインは自分の世界に閉じこもっているようで、「ふんふん」とか呟いたりしていた。キルアは少々引く。
「……不老不死……それは本当のことなのか? サイン」
「ほーでござるよー」
気が抜けた声でサインは答えた。天真爛漫な笑顔に、クラピカは気が挫けつつも尚も質問を続けようとする。しかし……
「早く次の選手来てくれないかな」
時間が待ってくれなかった。
「あ、もう次かあ……オレが行くよ!」
「どうして?」
「だって、次の人はそんなに悪そうじゃないでしょ?」
「……それでも犯罪者だっつーの」
キルアは呟きつつも、対戦者を観察する。よし、こいつなら大丈夫。
「ん、大丈夫。こいつは肉体派じゃなさそうだ」
「じゃー行ってくるね!」
ゴンは走ってここから向こうに渡っていった。
「……この話は戦いが終わってからだな」
「いいでござるよ?」
サインは始終笑顔を浮かべていた。
「……どっちにしても同じでござったか……」
「どうしたの? サイン」
「いや……何もないでござる」
「……? ふーん」
サインは壁に背中を向けて座り込んだ。
そして、ついちょっと前を想起する。
ゴンが勝利した後、次はレオリオの戦いになった。
主君の話ではここはクラピカでござったのにな……と思ったが、何も言わなかった。
もちろんのこと、レオリオは賭で負けに負けてチップ切れ。計五十時間ここにいなければいけなくなった。レオリオはもちろん皆から非難を浴びた。
そして、次の戦いはキルア。解体屋ジョネスを瞬殺した彼によって、サイン達の勝利は確定した。結果的にはクラピカの戦いはなくなったのである。
そして、ここは五十時間を切るまでの待ち小部屋であった。
「さて……話してもらおうか。サイン。不老不死とはどういうことだ?」
クラピカが厳かに言った。ゴン、キルア、そしてレオリオもうんうんと頷いている。
「ふむ……さて、どういったらいいでござろうか?」
首をかしげてサインは言った。
「一つ。それはどういった能力なのか。特性なのか。二つ。それはもともとか、後天的なものか。三つ、そのことをハルトは知っているのか」
指を立てながら、クラピカは尋ねた。
「そう言ってくれたらわかりやすいでござるね。―― 一つ目はそのままでござるよ。つまり、そのまんま不老で不死でござるね」
「死ぬことは無いのか?」
「さあ? 少なくとも拙者は知らないでござるね。他の不死者を知らないし、死んだことは――つまりあの世に行くということでござるが―― 一度もないでござるからね」
「他に居ない?」
「それも知らないでござる。少なくとも拙者はいままで会ったことが無いことは確かでござるな」
それを聞き、クラピカは頷いた。
「二つ目は……これは後天的でござるね。少なくとも、生まれたときはそんなことなかったでござるよ。普通に成長したでござるしな」
「――ちょっと聞きたいんだけどさ、まあこれは興味本位なんだけど――サインって何歳?」
キルアはおずおずと尋ねた。それに対してサインは苦笑する。
「女性に歳を聞くのは無礼でござるよ」
「サインって女性なの?」
「無礼な!」
サインは瞬時に目を据わらせると、キルアを殴った。……念を微少に入れて。
(あ……念を少し使ってしまったでござる……まあいいか)
「いっってー!! 何すんだよ!」
「無礼なこと言った罰でござる」
備え付けられた急須からお茶をコップに入れ、そしてそれをずずずと飲みながら、半眼になって言った。
「まあ、拙者は心が広いから許すとして――何歳でござろうかな……五百に足すこといくつか……千くらいいってるかもしれないでござるね」
「せ――ッ」
その場に居た者は皆、目を剥いた。それほどの数字だったのだ。
「まあ、歳なんていくつでもいいじゃないでござるか。それで、三つ目でござるが……勿論知ってるでござるよ。当たり前でござる」
なぜか自信満々に言って、胸を張った。
「そうか――ハルトは知ってるのだな」
クラピカが考え込みながら言った言葉にサインは違和感を覚えた。
なんだろう……あれ? サインは首をかしげながら考え込む。
そして、その理由にすぐに思い立った。
(ハルトというのが気に入らなかったのでござるね)
納得した顔にサインはなった。
サインにとって、他識は主君である。そして、「ハルト」と言う名前では無いのだ。
いままで感じてきた違和感の理由に気づき、サインはほっとした気分になった。そして、同時に思う。
彼等に他識という名前を教えてもいいのではないか、と。
そもそも、彼は別に偽名を名乗る必要がないのだ。指名手配されてるわけでもない。理由は簡単。こういうのは偽名を使うものだと相場が決まってるから――
しかし、サインはこのハルトと言う名前は他識に似合わないと思うのだった。他識はやはり他識で、それ以外にはなり得ない。他識という名前は彼にぴったりなのだ。
そして、もう一つ言いたいことがある。これを知らなければつき合うことができない――そんなものが一つある。
ということで、サインは彼等に本当のことを教えることにした。
「ねえねえ、皆聞いて欲しいでござる」
「何?」
サインが集合の言葉を言うと、皆が集まって来た。
サインは深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。
「いままで皆に隠してたことが二つあるでござる」
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