TRICK<裏>3

驚愕が襲う。わー怖い。

「隠している……こと?」
 レオリオはぽつりと言った。クラピカは眼を細くさせ、キルアは体を強らばらせ、そしてゴンは――別に何も無かった。
「そうでござる」
 サインは軽く頷き、右手の人差し指を立てた。
「まず一つ。これは簡単なことなんでござるけどね。名前――でござる」
「名前……お前達の名前が違うのか? 偽名でも使ってるのか?」
 レオリオが一同の疑問を代表して尋ねた。
「お前<達>ではないでござる。拙者はサインでざるからな。でも、主君は違うのでござる。……クラピカなら聞いたことがあるかもしれないでござるが、主君の名前は『零崎他識』」
「わたしが……? いや、知らないな」
「そうでござるか。まあ、別にそれでもいいでござるが。零崎他識というのが主君の本当の名前でござる。ちなみに、ホカシキというのが名前でござるよ」
 そこでクラピカは手を軽く挙げ、サインに質問する。
「一つ訊きたいことがあるんだが。なぜ、そんなことを私たちに教えてくれるんだ? わざわざ偽名を使う……しかも私に確認までするということはその名前は広く出回っているのだろう?」
「最もな質問でござるが、それは拙者と主君ではまったくのお門違いでござる。これには二つ理由があるでござる」
 くすくすとサインは笑う。そして左手の人差し指を立てた。
「まず一つ。主君が偽名を使ったのはノリでござる。たいして意味無いでござる。なんとなくやってみようかなーという気分でやっただけでござるよ」
「の、ノリ……」
 一同はポカンとした顔をした。
「そうノリでござる」
 大まじめで頷いた。左手の中指を立てる。
「そしてもう一つ。主君は名前を知られる事に対して危機感なんてまったくこれっぽっちも持ってないでござるから。主君は自分の腕に絶対の自信をもってるでござるよ」
 少し頬を赤らめながら、サインは自慢げに言った。
「それにさっき見たように、拙者も不死でござるからな。――あ、不死については後でござるよ。まず拙者からでござる。……それで、まあ二つの理由で皆に本当の名前を教えたのでござる」
 そう言って、左手を降ろした。次に右手の中指を立てる。
「次に二つ目。これが最も重要でござる。まあ、キルアとゴンはもう知っているみたいでござるけど、主にこれは二人に言うことでござるよ」
 そう言ってクラピカとレオリオに向き直る。二人は少しとまどった表情を作った。その中にはキルアとゴンが知っていることって一体? というものも含んでいる。
「殺人鬼」
 唐突に単語を述べた。
「これを聞いて何を思い浮かべるでござるか?」
「いきなり言われてなー」
「殺人鬼……零崎他識……零崎……まさか!」
「クラピカは気付いたようでござるな」
 サインは陰を感じさせる声で言った。クラピカは眼を見開き、体を震わせている。
「殺人鬼と聞いて最も世界的に有名なのを知らないのか? レオリオ。仮にもハンターを目指す者がこれをしらないわけあるまい」
 クラピカはレオリオに話しかけた。ゴンとキルアははたから無視である。
「殺人鬼ね――それと言ったら零しか……って、まさか!」
「どうやらそのまさからしいぞ」
 声に緊張感を加えてクラピカは言った。
「そうか、あれは本当は『零崎』と書いてあったのだな。あの殺人現場には『零』という名しか残っていなかったのだが……」
「あれ? そうでござったか。掠れてしまったのでござるかねー」
 ううむ、とサインは唸って腕を組んだ。
 ゴンが頭に?マークを浮かべ、クラピカに問い掛ける。
「それは何なの? クラピカ」
「それはな、ゴン。今から一年ほど前のことだ。ある町に猟奇殺人があった。そのこと自体は珍しい事ではない。どこでもあるものだ」
 しかし、と彼は続ける。
「ここで違う点は……その町の人間が全員殺されたということだ。猟奇殺人によってな」
 クラピカの言う言葉にゴンは言葉を無くした。それほどスケールがでかいということだ。
 否、大きすぎて彼にはわかりにくかった。
「もちろん新聞などにとりざされた。噂が噂が生んだ。そしてここで恐ろしかったのは……その町の住人の近親者――ほかの町に住んでいる者だ――が次々と殺されていった」
 淡々とした言葉が逆に怖い。訊いている者は皆言葉を発さなかった。
「もちろん、ハンターはそのままにしておけなかった。次々に実力あるハンターがそいつを捕らえようとした。しかし、そのことごとくは返り討ちになった。皆死体で発見された。
 ある者は怒りでゾルディック家に依頼したそうだ。だがそれさえも退け、依頼主を殺す。そして、そいつの最後の殺人でその場に『零』という言葉が残されていたそうだ」
 しばらくの間その場はシーンとなった。それほどまでにこの話はスケールが大きい話だったのだ。ゴンでさえも何を言って良いのか分からないようである。そしてキルアがポツリと呟いた。
「そうか。親父が言っていたのはハルト――他識のことだったんだな」
 それをレオリオが聞き咎めた。
「お前何を言ってるんだ?」
「あ、キルアの一家って暗殺一家なんだっけ。それで……」
「そう。それでさっき話がでたゾルディック家」
 頷いて、キルアはサインに話しかけた。
「前に知り合いって言ってたけど、そういう知り合いというわけ?」
「ま、まあそうでござるよ……」
 サインはあらぬ方向を見た。冷や汗だくだくである。
「ふうん。まあいいけど。それでさ、何でサインはそんなことを俺達に教えたのさ。これは偽名とかよりももっと大切なことだぜ」
 それは皆が知りたいことであった。自然、聞き耳を立てる格好となる。
「それは皆に知っておいて欲しかったからでござるよ」
 あっけらんとサインは言った。
「主君と一緒にいることは本当に危険だということを知っておいて欲しかったのでござる。主君は本当に殺人鬼でござる。人をばんばん殺し続けるござる。仲間だろうと友達だろうと心痛めることなく、利害なく殺すでござるよ。その覚悟が無いなら一緒にいるな」
 鋭い言葉だった。眼を細める。
「主君と一緒にいるならそれぐらいの覚悟を持ってほしかったでござる。勿論、普通の――というか人間なら離れるでござる。でないと生きることができないでござるからね。拙者だからこそ、不死でござるからこそ一緒にいれると言っても過言ではないでござる。まあ、拙者がいるから突発的な殺しはほとんどないでござるけどね。それでも……覚悟を持って欲しかったのでござる」
 と、サインはそこで口を閉じた。そして皆の心を覗き込むように言う。
「まだまだ時間はあるでござる。主君と接して生きるか、それとも離れるか。離れても殺しに行くことはないでござるよ。だから、この試験中に考えておいて下さいでござる」
 と言って、サインは横になった。すぐにすーすーという寝音が聞こえてきた。
 サインを除く四人は視線を交わした。考えるまでも無いことだ。彼等は他識が罪深いことを知っている。というより、今知った。だからと言っても、ここで他識を見捨てるなんて論外だ。
 彼等はこくんと頷いた。



 サインは横になり、寝音を立てながら考えていた。
(別にこれでいいでござるよね)
 ここにはいない誰かに言った言葉であった。
(彼等であったならここで離れるなんて言わないでござるよ。それで一緒に居るなら共有する知識はたくさんであればあるほどいろいろと楽でござるから。主君……許してくれるでござるよね)
 少し涙ぐむサインであった。いままでのことが思い出される。
 ……殺されるかも。
(まあ、殺されるのはいつものことでござるし。でも、怒らないでほしいでござるー)
 サインは胸で思い、そして本当に眠りに落ちた。
 彼女は一つのことを彼等に言わないでいた。それは他識が異世界から来たということだ。他のことならばともかく、このことに対しては怒ったであろうとサインは思ったのだった。
 そしてそれは正しかった。
 彼女がここから出るとき、他識は許す。そしてその一点を言わなかったことを誉めるのであった。
 それがあるのは後何十時間か後。



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サインが暴露の図。ここでサインが偽名を言うのは初めから決まっていました。ただ、偽名を言うなら殺人鬼であることも言おうかなーと。
というか、普通の人ならここですぐ逃げるんですけどね。彼等は変人だー。
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