グリーンで愚凛で虞倫な森

見下すことは楽しいな。

「サイン――遅い、遅いぞ。遅すぎだ」
「え……それは……」
「おかげでヒソカと一緒にいるという拷問を受けちまったじゃないか!」
「……そうでござるか……」
「それはひどいなあ♣」
 くっくっくと笑うヒソカを無視して、僕はできるだけヒソカから離れた。いやヒソカではない。未確認生命体だ。確認しててもやっぱり未確認生命体だ。
「――あああ、本当に拷問だった……そうだ、そうだった。ヒソカって合格するの早いじゃねえか……!」
「そうでござるなー」
 気のない返事でサインは答えた。普段の僕であれば最低でも殴るところなのだが、何十時間も震えていた僕としてはそんなことは快く許してやる。僕って優しい。
 そして、サインに語った。


 一番乗りで合格した僕。僕はここに入ったとき、ちょっと有頂天になっていた。そりゃあ、一番というのは大体が嬉しいものであるから。僕にとってやりやすい道だったのもあるが(クイズの道とかだったら確実に敗退だ)やっぱりこの一番の業績は実力だろう。無識兄さんに誉めて貰えるかなーとか考えたり。
 しかしながら。やっぱり世界というのは世知辛いもので、そんな一番は最高の不幸を伴っていたのだった。
 具体的に言うとヒソカが。具体的に言うと視線が。
 体に悪寒が走ったとだけ言っておこう。
「ああああ! もっとゆっくり合格すりゃよかった! あああ、あの粘っこい視線! ナメクジとゴキブリとミミズとその他何かが背中を勢いよく滑り落ちるような感触!」
「世のご婦人方が失神する比喩でござるね」
「いや、これでも足りない……もっと、こうねばねばしててぐにゅぐにゅしてて、びくびくびくしてるやつ……」
「どんなでござるか?」
「さあ?」
「……………………」
 いま思い出しても悪寒が……! いや、思い出さないでおこうその方が精神衛生上よろしそうだしよしそうしよう。
 心中で首肯した後、僕はサインの背中に抱きついた。
「――ひ、ヒエッ!?」
「ふー……」
「な、何をするでござるか!?」
「充、電、中」
「う……あ……う……」
 サインは顔を真っ赤にさせて何やら呻いていた。ちょっとビックリ。
「いや、別に嫌ならいいんだけどさ」
 無理強いはしない性格なもので。そう言って僕が手を離そうとすると、サインは真っ赤な顔を振ってそんなことないと途切れ途切れ言った。
 …………。変なの。
 第一次試験にサインを負ぶったけど、あれと何か違うのか? まあ、いいけど。

「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は四次試験と最終試験のみ」
 外に通じるドアが開き、そこを通るとそこには果物がいた。
 …………。いや、人間か。
 ……ハンターって変なの多いよなー。
 僕が過去を思い出していると、パイナップルは言葉を続けた。
「四次試験はゼビル島にて行われる。では早速だが、これからクジを引いてもらう。このクジで決めるのは狩る者と狩られる者」
 と、後ごちゃごちゃ言っていた。そして、クジを引くことになる。もちろん一番は僕だ。
 そのクジを見ると、そこには八十七番と書いてある。はて、そんな人残っていただろうか。
 記憶に残っているマンガを思い出しても、無かったように思える。そういえばよく周りを観察してみれば、通常よりも残っている人物が多いようだ。これはやっぱり、僕というイレギュラーのせいだろうか。
 しかし、逆に僕が狙うべき人も分かった。この増えた人、全員殺すことにしよう。
 と、しずかに決意していると、サインもクジを引き終わったようで、それを見させてもらう。
「ねえ、サイン。ちょっと見せて」
「……へ? ああ、いいで――だ、だめでござる!」
 ほのーぼのーとしていたサインは、もらったクジを見た途端焦った顔つきになった。どういうことだろうか。すごく気になる。
 好奇心を刺激された僕は、えいっとサインからクジを奪い取った。
「だ、駄目で――!」
「ええっと? 407番? ……………………」
「……………………」
「……………………まじで?」
 コクン。サインは頷いた。
 いやー。びっくりだ。まさかサインの得物が僕だとは。でもまあ……
「そんなにびくびくそなくていいから。僕のプレート無くても合格できるよ」
「へ? 何ででござるか」
「僕が大量に狩るから」
 僕はサインに、ここまで生き残った人の数が多いことを告げた。何人多いかは数えないと分からないが、六人くらいはいるように思える。十分な数だ。
 こっそりと僕はほくそ笑んだ。


 島に着くまでの間。僕とサインはゴンとキルアを探して船の上を歩いていた。そしてほどなく見つけることができる。
「おーい。キルア、ゴン。久しぶりー」
「――あ、他識!」
 僕とサインはゴンのいるところに足を向けってあれ?
 ……何か、さっき聞き逃せない言葉が聞こえた気がするのだが。
 何か嫌な予感を覚えながら僕はゴンとキルアのいる場所に着いた。
「やっぱり他識も合格してたんだな。しかも一番。あのとき、オレ、驚いたぜ?」
「うん。僕も」
「……ちょっと待て」
 僕は二人を押しとどめる。いまのは確かに聞いた。聞いた。確かに聞いたのだが……
「なんでお前らが僕の本名を知ってるんだ? 一応隠しておいたはずなんだけど」
「サインが教えてくれた」
 子ども達は邪気無く答えてくれた。おう、正直なこっちゃ。
 そして正直じゃない逃げだそうとしていたサインの首もとを掴んだ。ぐえという声が聞こえるが、きっと気のせいだろう。
「何でこいつらが知ってるんだよ! 一応隠してたの知ってただろ? 一応だけど」
「だって主君が他の名前で呼ばれるのって変な感じがするでござるし」
「そんなことでばらしたのか!」
「じゃあ、主君は何か理由があったのでござるか?」
「……それは……まあ、偽名語るのが基本だし」
「じゃあ、別に言っても良いじゃないかでござる」
「まあ、それもそうだな」
 それほどこだわっていたわけでもないので、僕はあっさり引き下がった。引くことができるのは大人の条件だ。
「それで、話は終わった?」
「ん? ……ああ、終わったよ」
「それでさ、サインの狙う相手ってだれなの? オレとかキルアとかじゃないよね」
「ああ。違うよ。知らない人の。二人は?」
「先にサインを言ってよ。サインは誰?」
 ゴンが何も含んでいない様子で聞いてきた。それに僕は簡単に気軽に答える。
「僕」
「……え?」
「だから僕。サインの狙う相手って僕。ぼーくー!」
「え……えええええええ!」
 二人は目を丸くさせ、そして大声を上げた。僕としては驚きの反応だ。
「どうしたの。そんなに驚いて」
「だってサインが他識のプレートを狙うんだよ? なのになんでそんなに仲良さそうなのさ」
「だって関係ないし」
 僕が言うと、サインも頷いた。誰を狙うなんてまったく意味がない。少なくとも僕やサインにとっては。別にサインの対象を狩らなくても、つまり僕だが、僕が他の一点を狩るつもりだから関係なし。まったく無い。
「別に大丈夫さ。それより二人のを見せてよ」
 結果は分かっていたが、一応尋ねてみた。そして答えはやはり同じだった。
「オレは199番。誰かは知んね。他識は知ってる?」
「いや?」
 嘘だけど。
「オレはヒソカなんだ」
「……ヒソカ?」
「うん。ヒソカ」
 何度考えてもここでやる動作は一つだった。かわいそうにとゴンの頭を撫でる。
 実際可哀想だ。
「まあ、がんばれ」
「あれ、他識は一緒にいかないの?」
「だって僕、一番だし」
「……? それが?」
「それがって……ああ、いや何でもない。気にしないでくれ」
「う、うん」
「それじゃあ、なあ」
 僕は慌てて二人から離れた。危ない危ない。そういえば一番の人から順番に島に入ることをまだ二人は知らなかったんだった。ふー。
 まあ、知られても痛くない情報だけど。
 いよいよ近づいてきた島を見て僕は呟いた。
「……殺戮ショーの始まりだ」



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書きたかったやつ。
でも中身は変……もっと精進しなければ!
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