心が痛む問題

全てを終わらせるためにまず始めよう。


「……うーん」
 何か釈然としないものを感じる。何か見落としているような雰囲気。まるで知っておかなければいけないことを知らないかのような居心地の悪さ。
 それを僕は木の上で噛みしめていた。
 天高くお日さま。そこから降りてくる日光。健やかな風が辺りを漂い、からからと落ち葉が転がっていく。
 船の上から一番で降りた僕は、気楽に一人旅と洒落こむか保護者気分で行くか数秒迷ったあと(ちなみに僅差だった)、サインを待つために木の上へ上がった。
 そんなときのことである。
「――なーんか変なんだよな……」
 二番三番と次々に降りていく受験生を見ながら呟いた。というかさっき降りたヒソカ。彼ががこっちを見たような気がするが気のせいだろうかというか笑みが怖すぎちびりそう。
 こんなことを考えるのは、実はハンター試験に参加してからだったりする。……両方とも。
 十番目の人が出発した。
「何で僕がハンター試験に参加したのかが曖昧なんだよなー」
 僕はかなり前からハンター試験に参加することを決めていた。そう――あれは丁度半年ほど前であろうか。なんとなくハンター試験に参加しようと思ったのだ。
 どれぐらいやる気がなかったかというと、寝起きの頭でいきなり考えたくらい。
 ……うわー。やる気ねー。
 十七番目の人が出発した。
 ずっと僕はミーハー心。つまりまったくもって野次馬根性で関わろうとしているのだと思っていた。でも、よく考えてみればそれだけではないような気がするのだ。というか冷静に考えればミーハーで死者多数のハンター試験に受験するなんて世の中舐めきっているといわれてもしかたないだろうが。あー。でも暇つぶしでくるやつもいるし別にいいか。
 そんで、今もう一度考えてみると深くは言えないがなんとなく違うような気がする。透かし入りのお札と無しのお札ぐらい違う気がする。
 もしかしたら、寝起きに思いついたというのがキーポイントなのかもしれない。
 寝起き――寝る――夢――夢!
 まさか……いや、そうか。信じたくないけど、このなんとも言えない不快感はそれだろう。
 腐っても鯛。蛙の子は蛙ということだろうか――
 と、思索に耽っていると、耳慣れた声が鼓膜を震わせた。
「しゅーくーんー! どーこーでごーざーるーかー? ぜーろーざーきーほーかーしーきーしゅーくーんー」
「……まあ、戯言なんだけどね」
 サインの声を聞いて、こんなことで憂鬱になっている自分の心がバカバカしくなってきた。
 そうだ。こいつのように前を向いて歩けばいい。理由とかそんなものどうでもいいではないか。
 晴れやかな気分で、僕はうろたえているサインを笑顔で眺める。
「……いるでござるよなー……――あれ、い、いない……? い、いや主君といえどもこんな島で拙者を一人ぼっちにするようなことは――あれ? しそうでござるな……」
 考え込み、次に慌てるサイン。
「しゅ、しゅくーん! 拙者をこんなところで一人ぽっちにしないで欲しいでござるぅ!」
 まるでちっちゃい子供だ。幼子を見る瞳でサインを見つめた。
「でないと主君の恥ずかしい写真シリーズを道行く人に配るでござるよぉ! 拙者の自信作でござる! 隠し撮りってなかなか難しいでござるな!」
 まるでおっきい馬鹿だ。殺人鬼の瞳でサインを見つめた。
「う、うう……主君がいないととても恥ずかしい人でござる……」
 次第に泣き出したので、仕方なくサインの前に姿を現した。降り立った時サインの頭に着地したのはご愛敬。ぐぼっという音がしたのは仕様だろう。
「それじゃあ行こうか」
「主君……何か拙者に言うことはないでござるか……?」
「言うこと? そんなもの……ああ、あった」
「そうでござろうそうでござろう!」
 笑顔になったサイン。僕も笑顔になって言った。
「写真とっとと出せやコラ」


「……冗談が通じない主君は嫌いでござるぅ」
 さめざめと泣き出した、大きいたんこぶをこさえたサインを横目に、僕は焚火を楽しんだ。
 燃えーろ燃えろ。恥ずかしい過去よ燃えーろ。
 火の処分をした後、僕は清々しい声でサインに号令した。
「それじゃあ行こうか。未来に向かって!」
「……しくしく。せっかくのマイ主君ラブ写真が……」
「行 こ う か」
「はいでござる」
 ピシッと手を顔の横に置いた姿を見て、僕は満足に頷いた。片手に持った消化警報(デリートミュージック)を懐に仕舞い、歩を進める。後ろからサインが来る気配がした。他には何の気配もない。
 ……あれ? 何かおかしくないか?
「それじゃあ、これからどうする? 選択肢としては、
@サインを血祭りに上げる
Aサインを血だらけにする
Bサインを流血でいっぱいにする
C優雅にティータイム
 があるが」
 サインはうーんと顔に皺を刻んで悩んだ。ポン、と手をたたく。
「それじゃあEの、優雅にティータイムで」
 番外を選びやがった。
「却下。Dの優雅にティータイムだ」
 すぐさま僕は却下した。冗談じゃない。
「えー、Eの優雅にティータイムがいいでござるよー」
「だ め だ。Dの優雅にティータイムだ」
 お互いに譲らない。うーむ。なかなか決まらないな。しかたない。
「それだったら間をとってHの怠惰に散歩で」
「しかたないでござるなー。本当に妥協でござるよ?」
 お互いにうんうんと納得し合った。言葉とは偉大だね。
 ということで僕たちは怠惰に散歩することとなった。
「ちなみに怠惰に散歩ってどうやってするんでござるか?」
「さあ」
 サインは酸っぱいものを食べたような顔になった。



 日の光が照りつける――こともなく。
 自然の恵みを感謝する――こともなく。
 僕たちはあくまで怠惰に。のんびりと。やる気なくのろのろと進み続けた。目的なく歩いた。僕たちの目の前に現れる木々をやる気なしに蹴り倒し、疲れたと言って座り込むサインを元気百パーセントで蹴り飛ばした。
 ……暇だなー。
「なー、サイン。暇だ。何か芸をしろ」
「主君は貴族でござるか。そんなものいきなり言われてもできるでござるよ」
 そうだよなーさすがにできるよなー。
「――ってできるんかい!」
「任せろでござる」
 自信たっぷりに無い胸を叩くサイン。でも今は鎧を着てるため手に震動が伝わったみたいだ。すごく悶絶してる。
 馬鹿だ。
「……で、芸は?」
「そんなものふっとんでしまったでござる」
 何事もなかったように笑顔で佇むサイン。僕は笑顔で鳩尾におひねりを叩き込んだ。
 額の多さに感激したようで、涙をちらっと流したようだ。うーん、いいことをするといい気分だなー。
「……ゴホッゴホッ……拙者が芸をするためには必要なものがあるでござるよー。ほら、拙者にはなくて主君にはあるものが」
「それは芸とゲイとを掛け合わせたとても面白くないギャグか? それとも笑いのセンスか?」
「おしい! 世の中を舐める視線でござる」
「なるほどなるほど。確かに僕は世の中を舐めきっているな。うんうん――って、なわけあるか!!」
 僕はサインの鳩尾に軽く突っ込みを入れた。僕のセンスに感服したようでへにゃへにゃと僕にひざまつく。
 いやいや、笑いのセンスがある人は大変だ。
「というかマジで暇だよな暇すぎだよな暇だっつの暇じゃ暇」
 僕は歩けど歩けど木ばっかりな状況に溜息をついた。まったくもって変化がない。双識兄さんもこんな気分だったのだろうか。
 珍しい、血の匂いに集まる蝶。呻き声を上げるサイン。横に倒れこんだ倒木。ぴくぴくと震えるサイン。空を見上げればけっこう陽が拝める。地面を見下げるとときどき痙攣するサインが見える。
 うん。至って平凡だ。
「ちょ……ちょっと待つでござる……主君は拙者の苦しむ姿を見て何も思わないでござるか……?」
「苦しむ? 新手の健康法じゃなくて?」
「むしろ不健康になりそうでござる」
 不機嫌そうな表情でサインは言った。それは取り立てておかしいことだろうか、いやない(反語)
「それにしても、サイン。本当に何も起きないな。一時間も歩いてるのに」
「いやいや、平和でいいことでござるよ。いや、拙者にとっては一分ごとにいろんなことが起こるでござるが」
「おい、能天気に考えてる場合か。いいか? 今は試験中なんだ例えこんなんで資格のあるなしがわかるはずがないと声を大にして叫びたい試験であっても、一応いまは試験中なんだ」
「ふんふん。それで?」
「なのに、受験生とまったく会わないなんておかしいだろう? 別に僕達は隠れて移動してるわけじゃない。むしろ堂々と歩いているわけだ立派なことに。そんな僕達を無視するわけないだろ」
「む……確かに……でも、警戒して隠れてるだけかも」
「それだったら僕はこんなことを言わないよ。今頃、そいつらの目の前に現れてプレートを拝借させてもらってるだろうさ。もちろん相手は快く貸してくれるのだろう」
「えーと……とにかく気配がまったく無いということでござるな? 確かにそれは変でござるな」
 サインはうむむと眉を寄せて考え込んだ。小さい脳みそで必死に考えてるようだ。……でも、一足す一が三になる奴だからなー。
 それに話はそう簡単ではない。僕はこの場にいる二人、つまり僕とサインの気配しか感じ取れないのだ。無識兄さん程すごくないのでこの島全部の気配がわかるわけじゃないけど、この近くにいる者の気配はわかる。なのに、ない。
 つまり、僕たちについているはずの試験官の気配もないのだ。
「……これはやばそうだな、俺達」
「……っへ? 俺、でござるか?」
 サインが怪訝そうな顔になった。
「どうしたんだ? サイン。馬鹿がハト鉄砲食らったみたいな顔してるぞ。だめじゃないか、ただでさえ馬鹿なんだからそんな顔しちゃ」
「一度主君は地獄に堕ちろ。――って、そんなことどうでもいいでござるよ! 主君が俺だなんて言ったのはあの事件以来なかったことではないでござるぞ!? そういう趣味に目覚めたなら拙者は何も言わないでござるが……」
「どんな趣味だそれは」
 それにしても、今俺は俺って言ったのか。
 …………。ホントだね。
 うわー。いよいよもって危ないな。俺が『俺』となるのは決まって――。
 まあ、いい。とにかく俺は

 これを待っていた。

「――!? しゅ、主君!? お、お、オーラが!」
「あーはいはい。後でな」
 俺は静かに深呼吸し、そして『消化警報(デリートミュージック)』を、具現化して巨大な鎌に変えた。背中でサインの息が止まる気配がする。
「そこにいるんだろ? 気配は無いのに魂の気配はあるんだよ!」
 俺は静かに目の前の地面を睨みつけた。
 宿敵のように。
 怨敵のように。
 獲物のように。
 そして、生きるべきでない者のように。
 ただただ睨みつけた。
 数十秒経つ。
「……何を言ってるでござるか?」
 我慢できないようにサインが言葉を発する。そして、それが合図であったかのように、地面がいきなりめり込み、そして坊主頭の男が現れた。
 胸元にはナンバープレートが付けられている。そこには362という番号があり、そして記憶が正しければ――
「トンパ、だったっけ?」
「ケンミだよ」
 即座に返された。俺の記憶……?
「それにしても、本当にお前らは面白いなあ! 数々の実験材料の中でもトップクラスだな! こう、血が沸き立つというか? 油が沸き立つというか!? いやー本当いつ出れるのか凄く心配だったんだよ! まったくもって登場の余地がなかったというか! そもそも私を知る人が何人なんだろうね! ほとんど初登場? いや初登場と断言してもいいと思うね!」
「何言ってるんだお前」
「いや、何。未来のための投資だよ? 登場頻度アップアップ!」
 とてもとても楽しそうに、嬉しそうに、酷くにたにたと嗤う男、ケンミ。否、違う。こいつの本当の名前はそんな脇役ではない。といっても、登場してすぐに死にそうではあるが。
「マネリタ……」
 俺は静かにつぶやく。後ろでサインが息をのんだ音がする。
 相手の方はといえば、静かにニタニタ嗤うだけである。
 俺は静かに唇を歪ませて。思いのたけを叫んだ。
「探したぜぇ? それじゃあお決まりの台詞を言いましょう。お前専門の言葉を吐きましょう。私は醜い醜い死神風情。名乗る名前なんてないですが、見栄は張らせていただきましょう」
 ふっと全てを超越したかのような笑みをもって宣言する。
「死ぬべき人に罪罰を。生くべき人に祝福を。ノートなんていりませぬ。手帳なんていりませぬ。いるのはただ一つ、デスサイズのみ。それでは始めましょう。裁きと喜悦を与えて御覧にいれましょう」
 俺は死神としてマネリタと相対した。



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勝手に死神の前口上を作りました。まあ気にしないことにします。
それとマネリタについては今のところスルーでお願いします。もう過去編で出す予定なので。
ただ言えることはこの作品のボスです。
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