過去回帰(カッコ機械)

反省してる暇があれば後悔しろ。


 突然で申し訳ないけど(僕)のことを話しておきたい。
 俺(僕)が零崎一賊に属していることは知ってのとおりだと思う。そして、その前は石凪調査室に属していたということも――知っていると思う。
 さて、その石凪調査室――死神なのだけれども、どんなところかと聞かれると正直首を傾げざるを得ない。そこに属していた俺(僕)であっても簡単に答えられるものではないのだ。
 ただ一つ言えることがある。あそこは零崎とは違った意味で異質だ。
 零崎と闘って勝つかどうかならば圧倒的に零崎が勝つだろう。無識兄さんが加わった零崎一賊。無識兄さんが無敵なのは置いといても、無識兄さんが入ったことによって皆も強くなり。零崎一賊は全体的に大きく格が上がった。上がってしまった。
 別にこれは自慢ではない。でも、実際そうなった。今では実質的な殺し名一位とまで言われている零崎一賊。それと石凪が戦ったところで勝ち目が有るわけないだろう。
 しかし、石凪の異質はそういう意味ではない。とにかく、彼らは死神――神なのだ。僕(俺)らが殺人鬼――鬼であるのと同じように。
 なぜこんなことを話したのかというと、ぶっちゃけて言えば俺(僕)は殺人鬼であると同時に……いまでも死神なのである。
 忘れたいことではあるが。
 おかげで俺(僕)が零崎一賊になったときはえらい騒ぎになったものだ。ある意味僕(俺)は世界を揺るがす存在であると言っても過言ではなかった。そのせいで狐仮面の男にストーキングされたこともある。あの時は正直とても怖かった。
 まあ。とにかく。
 何度も言うが、僕(俺)は殺人鬼であると同時に死神だ。いまでは殺人鬼の比重が多い、とはいえである。
 そして、今の僕はほとんど死神であった。
「なるほどなー。そういうことか。だから俺はハンター試験に来たんだな。なるほどなるほど。いやまさかまだ夢見が残っていたなんてなこの俺に。まあ、見ていたことを忘れてちゃあ意味がないけど。でも頭には残っていたんだよーというオチか? はっくだらね」
「夢見とな? それはまだ私もしらない情報だね。夢見……つまり未来視と考えてもよろしいかい? な、な、なーんと! まったくもって非科学的な!」
「念というものがそもそも非科学だろうが。ああもう。『俺』なんて使ってたら読者イメージが崩れちまう。健気なぼっちゃんっていう設定だってのに」
「まったくもって君には合わないね、それ」
 ひゃはははははとマネリタは笑った。
 きーきっきっきと俺は笑った。
「しゅ、しゅ、しゅ……」
「うん?」
 恐怖に怯えたかのような声に俺は振り向く。そこには眼が怯えの一色に染め上げられ、体ががくがくと震えているサインの姿があった。
 それを見たマネリタは至って親しげにサインへ声をかける。そこにはサインに恐怖を髄まで叩き込んだ存在としての空気がまったく感じられなかった。
「ほう? なんでそんなに震えてるのかい? サイン。寒いなら、ほらそこの他識くんから上着を借りなさいな。温もりと愛情たっぷりだよ?」
 サインは答えない。ただただ俺の背中にしがみ付くだけである。
 仕方がないので俺が代わりに答えた。
「どうやらこれは寒さで震えてるわけじゃないらしいぞ。『貧乏揺すり』が進化した『貧乏を強請り』らしい。まったくもって悪女な」
「最悪な進化のしかただね、それ」
 二人で笑い合う。二人の間には親しげな空気が漂う。
 そして、俺から向こうに向かっては一方的な殺気を送っていた。
「それで、一年探し回ったのに見つからなかったマネリタさんがどうしてこんなところにいるんでしょうか? しかも見たことない姿で」
「さ、探し回っただって!? そんなに私のことを愛してたのかい!? しかし残念ながら私と君には大きな溝があるのだと思うのだよ。ぐ、具体的に言うと年齢……」
「頬を染めるな気持ち悪い。そもそも溝はそこではないと思うしそんなこと言ってないしなに地味に笑ってるんだサイン!?」
 サインはあらぬ方向を見つめていた。顔が真っ赤である。唇には麻薬に染まった者特有の笑みが浮かんでいる。妄想に酔っているらしい。
「主君……主君は遠い所に行ってしまったんでござるね」
「零センチだけどな。くっついてるから」
「拙者、主君のためを思って身を引かせて頂くでござる」
「何を思ったんだ? 何を」
「決して二人のプレイをこっそり見たいとか、そういうのも有りかもとは思ってないでござるよ」
「もしかして俺、妄想で汚された!?」
 なんて冗談が言えるくらいにはサインは復活した。……冗談ですよね?
 マネリタの方を見れば所在なさげに悲壮感たっぷりと立っていた。想像してみて欲しい。坊主頭(決して禿ではない。しかも脇役)の涙ぐむ姿。
 ただただあほらしくなること請け合いだ。
「って、こんな冗談交わしてる暇なんか無い!」
「ええ!? 冗談だったのかい!? 私は本気だったのにぃ! 何が悪かったのか言って! 直すからぁ!」
「これ以上変なイメージを作るな!」
「……主君がこうで……ああで……こうで……――いい!」
「死ねえ!」
 サインの体に蹴りを入れて吹っ飛ばした。どうやら俺にはサッカーの素質があるらしい。
 笑みを浮かべたまま気絶した姿はとても気持ち悪かった。
「そろそろ話を進ませてもいいか?」
「も、もちろん!」
 マネリタは勢いよく首を上下させた。顔が蒼いのはご愛敬。
「それで、その体は何だ?」
 かねてからの違和感をぶつけた。サインも見ただけではわからなかったようだったし。声を聞けばわかったようだが。
「これかい? これはこの試験のために作った……いわばロボットだね。なかなか高性能なんだよ。君たちだって今の今まで気づかなかっただろう?」
 笑みを作ってマネリタは答えた。
「それじゃあ、何で姿を現したんだお前」
「そりゃあ出番が欲しく――」
 ザクッ
 どこからともなくナイフが飛んできてマネリタの傍にある木に当たった。
 ……どこから飛んできたんだ?
「そろそろやりたいことができたんだよ。君たち二人にも参加して欲しくてね」
 先程とは違う言葉をマネリタは吐いた。それにしても先程のナイフは一体――
 ザクッ
 …………。
「他識。触れてはいけないものというものが世界にはあってね。まあ、それに従おうよ」
「あ、ああ」
 何やら世界の秘密に触れた気分だった。
 閑話休題。
「参加ってのはどういうことだ?」
 カタ、カタと手で握ったデズサイズを鳴らす。催促。
 そして、マネリタは手を大きく振り上げ、俺に挑もうとでもしてるかのような言葉を吐いた。
「そろそろこの世界の原作が始まる頃合いだと思ってね!」
 瞬間。俺の時間が止まる。
 こいつの言ってることが理解から離れた場所に行ったからだ。
 原作。
 まさかコイツ……
「ああ、君をこの前から調べていてね。君は気付かなかったみたいだけど、あれから私は君をずっとストーキングしてたんだよ? おかげで興味深いことを聞くことができたよ。どうやらこの世界は作り物らしいね? いやいや実に面白い」
 その問いかけは確認であったため、俺は何も答えなかった。
 というより俺が答える必要はない。
 向こうに言わせて。本体がある場所を知らなければ……。
「おんやまあ。まったく顔を変えずに。少しは驚くかと思ったのに。残念。まあ、いいけどね。さあてと。それじゃあ私は去ることとするよ。少なくとも君が私を視認するのは……まあキメラアントとやらぐらいになるかな? ああ、そんな顔をしなくても教えるさ」
 ニヤニヤとマネリタは笑う。そして。大声をあげた。
「ここに宣言しよう! 原作通りに君が話を進めれば、君はいつか私を殺せると!」
 こつ。こつ。と、こちらに近づくマネリタ。
 その顔は喜悦に歪んでおり、とても正常な人間が浮かべることができるものではない。
 まあ。それも当り前であろうか。機械なのだから。
 本当の体も、作り物なのだから。
「それまで、どうか原作を壊さないでおくれよ? 楽しくないからね。実験したいことがあるからね。遊びたいからね。つまり、私は私自身を餌にすることにしたんだよ。偉い? ふはは」
 あと一歩というところでマネリタは立ち止まる。その瞳は挑むかのようだった。挑戦状を神に叩きつけるかのような瞳。先程とは違い、とても人間らしい瞳。
 それに俺は死神として宣言した。
「お前はもう死ぬ運命だ。それに逆らうな。流されろ。俺が殺すと決めた以上お前を殺す」
「ぜひともやってくれたまえ。死後の世界がどんなのかとても気になるところでね。まあ、機械の私が行けるのか疑問点はあるが」
 そして不意に無表情になると、マネリタはそこに倒れた。
 まるで魂が抜けたかのように。
 抜けたのだろう。魂ではなく、オーラが。
 まったくもって……何をしたかったのかがよくわからなかった。まあいい。
 僕はよくわからないものをよく知っている。それに対応する術も。生き残る術も。全てを無識兄さんに教えてもらった。
 あいつは一つ勘違いしてることがある。あいつは死を怖くないと思っているのだろう。なんたって機械だ。いくらでも生き残る術がある。
 だが。
 死神とは死を与える神だから死神なのだ。殺人鬼とは殺す鬼だから殺人鬼なのだ。
 だから。
 死ぬ恐怖を味あわせてやる。ちょうどあいつがサインに対してやったように。
 因果応報。一賊に仇なすものは皆殺し。
 サインは一賊ではないけれど。
 僕にとっては家族みたいなものになっているから。だから復讐する。ただただ僕自身のために。
 横たわるマネリタが仮にいたロボット。気絶しているサイン。そして静かに佇む僕。
 よくわからないことが起きてるなと思い。
 そして静かに溜息をついた。



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ギャグは難しいです。何が難しいって自分では面白いかまったくわからないから。
それで、まあ主人公は死神なのでした。というか死神って凄いやつっぽく戯言シリーズに書かれてるけど、本当はどうなのかわからないんだよねー。

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