殺人ロード
0
全知全能などない。
あるのは世界最強のみである。
1
「ゴン、もっと前に行こう」
「うん。はぐれたらいけないもんね」
ゴンとキルアはもうすっかり友達のようだ。ほんとにいいね、この年は。すぐに友達ができるんだから。友達なぞ、望めない僕としては羨ましい限りだ。
そもそも、過去に、零崎一賊で友達を作れた人っていたのかな? 人識兄さんといーさんぐらいじゃないのか? ……あの二人は少々例外のような気もするが。
「うぬぬぅー。極楽でござるぅー」
…………もちろん、こいつは友達じゃないからね。
「そんなことより、ヒソカから離れた方がいい」
「なんで?」
「あいつ、殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなりやるぜ」
かっこよく、クールにキルアが言った。瞳が怪しく光っている。僕もかっこよく、クールに決められる日が来るのだろうか。
そんなキルアの様子に、ゴンは不思議そうな顔をしていた。キルアはそれに気付くと、「なんでそんなことわかるのって顔してるね」と、笑いながら言う。
でも、僕は思うんだけどさ。そもそも、ヒソカという存在自体が危なすぎるような顔してるんだが。あいつから離れようとするのは自然の情じゃないか? 戯言だが。
「なぜなら、オレも同類だから。臭いで分かるのさ。――もそうだろ?」
「……は? 僕があいつと同類だって? 変なこと言うのはよしてくれよ。あんな殺人狂と一緒にするな。それに、僕はお前とも同類じゃないよ。お前もあいつと同類じゃないし」
「で、でも主君。主君は――むぐ」
「はーい。黙ってようね、事態をさらにかき混ぜ君」
キルアは不思議そうな顔で僕の方を見た。「以外だ」とでも思ってるんだろうか。それとも、僕が嘘をついているとでも思ってるのだろうか?
しかし、僕は至って真剣に答えたぞ。それに、キルアやヒソカと同一視されるのはかんべんならないと思っている。ヒソカは人殺しが大好きな殺人狂だし、キルアは依頼があれば殺す、暗殺者である。そして、僕は殺人鬼だ。この三つはまるで違うものだし、殺人狂と殺人鬼は似ているようにも感じられるが、やっぱり違うものだ。
理由は至って簡単。ヒソカは人殺しを楽しむが――僕は楽しんで殺したことなど一度も無い。……悲しんだことも無いが。
そんな僕の考えていたことがわかったかのようにゴンが、鼻をひくつかせてキルアに言った。
「同類……? あいつと? そんな風には見えないよ」
臭いも違うよと言いたいんだろうな。この自然ボーイは。
「それはオレが猫を被ってるからだよ。そのうちわかるさ」
「ふーん。わかった」
首を縦に振ってゴンは言った。そして、大きく息を吸う。
……あれ? そういえば原作では、ゴンはここで――
「レオリオー!! クラピカー!! キルアとが前に来た方がいいってさー!!」
「……僕はそんなこと言ってないんだけど……」
「どアホー!! 行けるならとっくにいっとるわい!!」
「……緊張感の無いやつらだな、もー」
「……右に同じ」
あーびっくりした。いきなり大声を出すとは。そりゃ、マンガを読んでたこと読んでいたが、そんなに細部は覚えていないし。
それにしても、マンガで見たときは微笑ましい感じだったが、実際に直面すると呆れてしまうもんだな。まったく。
そして、ゴンはまだ叫び続けている。その肺活量はなんだろう。
「そこを何とかがんばってきなよー!!」
「ムリだっちゅーの!!」
「頑張らないといろいろと大変でござるよー!!」
「いろいろってなんだよ!! できるわけねーだろーが!!」
…………………………………………。
「…………緊張感の無いやつらだな、もー」
「…………右に絶賛賛成」
サインよ……お前はどれくらい派手に動けば気がすむのだろうか。一応、一応お前は僕よりもはるかに年長者だろ? もう少し、慎みって言うものをだなあ……。
僕は溜め息をついて、サインに言った。
「お前さ。もう少し、静かに行動しろよ。保護者の僕が大変だろうが」
「誰が保護者でござるか!」
「僕だけど?」
「……………………」
沈黙するサイン。
「それでさあ。お前、円ってどれぐらいできたっけ」
「……突然何を言うでござるか?」
「いや、さ。ちょっとしたいことがあって。それをやるにはお前の円のやれる範囲を知りたいから」
「円でござるか? そんなの計ったこと無いから分からないでござる」
「だいたいで良いから。だいたいで」
「そうでござるなあ……二十年前は確か、ジャボンからぎりぎり大陸ぐらいまではできたでござったな」
「……はあ!?」
ジャポン……日本から大陸までって、どれくらいだよそれ……まあいいや。とりあえず、僕の目的とするものより大きいからいいや。少々大きすぎるような気がするけど。うん。いいってことにしよう。いいんだよ!
「それじゃあさ。これから僕たちは逆流するから」
「……へ? 何ででござるか?」
「僕が常にやることをするために」
しばらくの間、サインは分からなかったようで、首をかしげていた。しかし、やがてわかったようで、ああ、と言う。
「……主君。それっじゃあヒソカと同じでござるよ。さっきの違う発言はなんだったでござるか?」
「僕とヒソカは違うよ。全く違う。ヒソカは楽しみのために殺す――つまり快楽殺人だ。でも僕は――僕たちはそんな感情もってないんだよ。これはよく勘違いされることなんだけど、殺人鬼である僕ら『零崎』はさ。ただ、そうであるかのように殺すんだ。人識兄さんの言を借りるなら、息をするために殺す……かな。絶対に必要でもないし、まったくいらないわけでもない。そこには理由なんて皆無なんなんだよ。唯一、家族を守る以外はさ」
「………………」
眉をよせながら、サインは考え込む。いつものサインに比べたら、すごく考えているな。
「……よくわからんでござるが、主君は人殺しに行くんでござるね」
……実はあんまり考えていなかったのか?
「……まあ、そうだな」
「酷いでござる! 主君は拙者を殺すだけでは飽き足らず、他の者まで毒牙にかけようとしてるでござるか!」
「おい! その『殺す』を違うワードに置き換えたら、凄い女たらしみたいじゃねえか!」
「女たらしよりも悪いでござる」
「……まあそうだけど」
……あれ? なんか納得してしまったぞ? なんか違うような気がするんだけど? うん?
「そもそも、主君はしょっちゅう拙者を殺してるでござろう?」
「だからその言い方やめれって。それに僕がお前を殺してるのは僕が殺人鬼だからだ。普通、零崎は家族以外の存在がいたら殺しにかかるぞ。問答無用で。それをなぜかお前は殺しても殺しても生き返ってくるのがおかしいんだよ」
「そうでござるよねえ。なんで拙者は不老不死なのでござろうか」
「そんなの知るか。……でも、なーんか聞き覚えがある様な気もするんだよなあ……」
『不老不死の酒』……ここに来る前に見たことなかったか? こんな文字。
「まあ、いいや。それで、だな――」
「そこで何話してるんだ? とサイン」
「うおっ!」
話の続きをサインに話そうとしたとき、キルアが割り込んできた。顔をしかめながら。
もしかして、あの会話、聞こえてたのか? 一応、小声で話したけど、期待の暗殺者だったら聞こえてるのかもしんないし。
「もしかして聞こえてたか?」
「駄々漏れ」
「うおーう! やっべー!」
ということは。キルアが聞こえてるってことは、ゴンも……
「って殺人鬼なの?」
「……えーと、うーんと、まあ」
「へえ。そうか」
「……おい、ゴン! それだけかよ!!」
「え? だってそうなんでしょ?」
「そうだがよー」
キルアとゴンはなにやら叫びあっている。よし、今のうちに。
「それじゃあサインいくぞ」
「合点承知でござる」
僕たちはひっそりとその場から離れた。ゴンとキルアの話し声をバックミュージックとして……。
戻る メニュー 次へ
この小説が面白いと思われたら、
下をクリックして下さい!何か一言添えてもらえるとすごく嬉しいです!!
また、下もクリックしてくださったら嬉しいです。(ランキングに参加してるので)
DREAM×HUNTER D+S ... DREAM
SEARCH Dream Navigator
|