殺人ロード<キルアサイド>
……っち。なんかしらねーけど、ヒソカの気配が変わったな。いままでも危ない奴だったけど、もっと危なくなりやがった。殺気が――すごい。
「ゴン。もっと前に行こう」
「うん。はぐれたらいけないもんね」
いや、違う。いや、もちろん、それもあるけど、一番の理由はヒソカから離れることだ。今のあいつの近くにいたら俺たちなんて殺されちまう。これが兄貴とか――なら違うんだろうけどな。
「うぬぬぅー。極楽でござるぅー」
……あいつはなんなんだろうな。ハンター試験でいるべきじゃない奴のような気がする。そもそも裏の世界にいるべきじゃないな。
でも――オレはわかる。サインはオレよりも強いということが。
「そんなことより、ヒソカから離れた方がいい」
「なんで?」
「あいつ、殺しをしたくてウズウズしてるから。霧に乗じてかなりやるぜ」
サインはまるでゴンみたいだよな。無防備なところとか、妙に気をくじかせられるところとか。
「なんでそんなことわかるのっていう顔してるね」
なぜだか無性に笑いたくなってくる。ゴンはそれぐらい面白い顔をしていた。
「なぜなら、オレも同類だから。臭いで分かるのさ。――もそうだろ?」
オレは確信をもって言った。具体的証拠なんて無いけど、オレにはわかる。
は何人も人を殺してきてる人だと。しかもそれだけ殺してるのに後悔なんてなにもないということを。
なのに何でオレは一緒にいるのかはわからない。普段のオレなら急いで距離を開けたりするはずなんだけど――なぜだかそうする気がまったくしなかった。の独特な雰囲気のせいだろうか。
オレは、がオレの問いに肯定すると思っていたが、現実は違った。
「……は? 僕があいつと同類だって? 変なこと言うのはよしてくれよ。あんな殺人狂と一緒にするな。それに、僕はお前とも同類じゃないよ。お前もあいつと同類じゃないし」
「で、でも主君。主君は――むぐ」
「はーい。黙ってようね、事態をさらにかき混ぜ君」
……は? オレは不思議なものを見る目でを見た。
違う? どういうことだ? しかもオレまでそれじゃないと言うなんて……。オレは暗殺者として育てられて――殺しが日常的だったんだから……。
「同類……? あいつと? そんな風には見えないよ」
「それはオレが猫を被ってるからだよ。そのうちわかるさ」
「ふーん。わかった」
ゴンは純粋そうな顔で頷いた。そんなゴンの姿に軽く羨望を感じる。
……もしかして、オレも普通の家族に囲まれていたら同じようになれたのだろうか、と。
「レオリオー!! クラピカー!! キルアとが前に来た方がいいってさー!!」
「……僕はそんなこと言ってないんだが」
「どアホー!! 行けるならとっくにいっとるわい!!」
なんだ!? ゴンがいきなり後ろに向かって叫んだぞ? ……こいつ、今が試験中だってこと忘れてるんじゃないだろうな。
「……緊張感の無いやつらだな、もー」
「……右に同じ」
を見ると、も呆れた表情でゴンを見ている。自分だけじゃなく、ほかの人も同じだと分かり、少し安心した。
「そこを何とかがんばってきなよー!!」
「ムリだっちゅーの!!」
「頑張らないといろいろと大変でござるよー!!」
「いろいろってなんだよ!! できるわけねーだろーが!!」
……あれ? なんかサインまで叫びだしたし。似てるとは思ったけど、そこまで似てるなんてな。
「…………緊張感の無いやつらだな、もー」
「…………右に絶賛賛成」
再びを見ると疲れた表情をしていた。溜め息までついている。
「お前さ。もう少し、静かに行動しろよ。保護者の僕が大変だろうが」
「誰が保護者でござるか!」
「僕だけど?」
「……………………」
はサインを軽くたしなめていた。しかし、の保護者発言に、サインはなぜ黙り込んだのだろうか?
そのあと、とサインは小声で会話を始める。少し気になって耳をそばたせてみた。見ると、ゴンも同じようにたちをみている。
「それでさあ。お前、円ってどれぐらいできたっけ」
「……突然何を言うでござるか?」
「いや、さ。ちょっとしたいことがあって。それをやるにはお前の円のやれる範囲を知りたいから」
「円でござるか? そんなの計ったこと無いから分からないでござる」
「だいたいで良いから。だいたいで」
「そうでござるなあ……二十年前は確か、ジャボンからぎりぎり大陸ぐらいまではできたでござったな」
「……はあ!?」
円とはなんだろうか。話を聞いている限りでは何かの範囲が円のように感じるけど。そういえばジャポンってどこだっけ。
「それじゃあさ。これから僕たちは逆流するから」
「……へ? 何ででござるか?」
「僕が常にやることをするために」
――!? 逆流ってどういうことだ!?まさか――戻るってことか!? なぜ!?
「……主君。それっじゃあヒソカと同じでござるよ。さっきの違う発言はなんだったでござるか?」
「僕とヒソカは違うよ。全く違う。ヒソカは楽しみのために殺す――つまり快楽殺人だ。でも僕は――僕たちはそんな感情もってないんだよ。これはよく勘違いされることなんだけど、殺人鬼である僕ら『零崎』はさ。ただ、そうであるかのように殺すんだ。人識兄さんの言を借りるなら、息をするために殺す……かな。絶対に必要でもないし、まったくいらないわけでもない。そこには理由なんて皆無なんなんだよ。唯一、家族を守る以外はさ」
「………………」
……………………
さっきから、おかしな単語がでてくるんだけど。殺人鬼とか、あと……零崎とか。
しかも、ヒソカと自分の差異まで話すし――
「…… 」
サインが一段と声をひそめたからうまく聞こえなかった。くそっ、何を言ってたんだ?
「……まあ、そうだな」
「酷いでござる! 主君は拙者を殺すだけでは飽き足らず、他の者まで毒牙にかけようとしてるでござるか!」
「おい! その『殺す』を違うワードに置き換えたら、凄い女たらしみたいじゃねえか!」
「女たらしよりも悪いでござる」
「……まあそうだけど」
!?!?!?!? 殺す? どういうことだ? まったくわからない。何を言っているのか……
「そもそも、主君はしょっちゅう拙者を殺してるでござろう?」
「だからその言い方やめれって。それに僕がお前を殺してるのは僕が殺人鬼だからだ。普通、零崎は家族以外の存在がいたら殺しにかかるぞ。問答無用で。それをなぜかお前は殺しても殺しても生き返ってくるのがおかしいんだよ」
「そうでござるよねえ。なんで拙者は不老不死なのでござろうか」
「そんなの知るか。……でも、なーんか聞き覚えがある様な気もするんだよなあ……」
不老不死……? だめだ。もう、わけがわからなくなってくる。二人が何を話してるのかまったくわからない。ゴンを見ると、ゴンも頭に?を浮かべながら不思議そうな顔をしていた。
「そもそも、主君はしょっちゅう拙者を殺してるでござろう?」
「だからその言い方やめれって。それに僕がお前を殺してるのは僕が殺人鬼だからだ。普通、零崎は家族以外の存在がいたら殺しにかかるぞ。問答無用で。それをなぜかお前は殺しても殺しても生き返ってくるのがおかしいんだよ」
「まあ、いいや。それで、だな――」
「そこで何話してるんだ? とサイン」
「うおっ!」
黙っていられなくなって、オレは話の中に入り込んだ。このまま聞き続けていたら、まるで夢の世界に入り込んだようで……。
「もしかして聞こえてたか?」
「駄々漏れ」
「うおーう! やっべー!」
ちっとも大変そうじゃない顔では嘯く。オレから見たら、ごまかしてるようにしか見えない。
「って殺人鬼なの?」
「……えーと、うーんと、まあ、そうだな」
「へえ。そうか」
……は? それで終わり!?
「……おい、ゴン! それだけかよ!!」
「え? だってそうなんでしょ?」
「そうだがよー」
「だって、本人がそういってるんだから、そうなんじゃないの?
「それはわかってるよ!」
オレはは普通とは違うと分かっていた。別に殺人鬼でも驚きはしない。でも、問題は――
「不老不死ってのを先に訊けよ!」
「不老不死って?」
「あいつらが言ってただろうが!」
「そんなの言ってたの!? オレ、考え事してて気付かなかったよ」
……聞いてなかったってことか? っち、しかたない。に聞くか。
オレはとサインがいたところに顔を向けながら話をしようとした。しかし――。
「――おい、ハル――」
「あ……いない……」
そこには誰もいなかった。いつのまにかいなくなっていたらしい。
「あいつら、どこに……」
「ってぇー!!」
「レオリオ!!」
「ゴン!!」
突然、誰かの叫び声がして、ゴンは走り出した。さっきの叫び声はレオリオだろう。だが、この霧の中、逆走するなんて……。
「なんだってんだよ……畜生」
まるで自分だけが取り残されたかのような感じだ。も、サインも、そして――ゴンもオレとは違う存在だ。そんな現実を押し付けられたかのような気がして……。
たちはちゃんと来るのだろうか。ゴンは? ほかの皆は?
「……っち。これはハンター試験なんだぜ」
呟いてみたが、まるで負け犬の遠吠えみたいで虚しかった。
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