本領発揮(叛路白旗)



地面をゴロゴロ転んでく。



 あー、やばかった。やばかった。あー、僕はあそこで憤死してしまうかと思ったよ。しないけど。


 ――いや、今でも危ないことには違いないんだけどさ。やっぱり逃げれたことに対しては安堵してしまうわけで。


 それにしても、もうばれちゃうなんてなあ……。まあ、100%僕が悪いんだけど(サインには責任転嫁できない優しい僕)、まさか聞き耳を立てられてるとは思わなかった。


 反省反省。


 いや、よく考えてみたら、あの会話でわかることなんて皆無に等しいよな。まあ、あれだけだったら何がなんだかわからないだろうし、別に大丈夫だろう。それに、ばれた所でなんら支障が無いし。


 僕は――そもそも目的が無いのだから。


「――――――――」


「一人目」


 そもそも、僕はこれからどうしよう。


 ちょっとしたミーハー心で、こんな試験に挑戦してみたんだけど、具体的な目標を持っていなかったように思われる。


「――――――――」


「二人目」


 しばらくの間、ハンター組と一緒に行動するか。それとも、


「――――――――」


「三人目」


 サインと二人で一緒にいるだけで、遠目に、


「――――――――」


「四人目」


 主人公達を見ているか。ヒソカと一緒に


「――――――――」


「五人目」


 行動するという選択肢もある


「――――――――」


「六人目」


 にはあるけど、できれば


「――――――――」


「七人目」


 遠慮しておきたいのが心情というものだし。というか、そんなことよりまず、


「おい。お前、何をやってるんだ? 僕が殺すたびに何か呟いてるみたいだけど! というか五月蝿いんだけど!」


「主君が今日、殺した人数を列挙してるでござるよ。ちなみにさっきの四人目で、拙者が数え始めて四千四百四十四人殺したことになるでござる! 記念日でござるね! お祝いでござる!!」


 ぱちぱちぱちと手を叩くサイン。顔は笑顔である。子憎たらしいほどの笑顔である。


「まあ、お前のことなんてどうでもいいんだけど」


「酷い!? ――まあ、拙者もさっきは適当で言ったんでござるが」


「適当かよ!?」


「てっきとうでござるぅー――ぶふぉッ!!」


 とりあえず、サインを下に放り出し、手に持ってるものを縦にした状態で殴っておいた。


 ドスッという鈍い音がし、そして静かに血が流れる。通常であるならば致死に値する量が流れるのだが、しかし――


「い、痛いでござるー!! 遺体でござるー!!」


「それにしても、その仕組みってなんなんだろうね。まったくもって見当がつかないや」


「スルー!? 渾身を込めて送り出したギャグを無視でござるか!?」


 サインの頭から流れ出た血液。それは瞬く間にサインの頭へと戻る。まるで、血液の一滴一滴が生物であるかのようだった。


「そういえば主君。ハンター試験中は念能力は使っちゃ駄目だったんじゃないでござるか? なのに、なんで円のことを訊いたでござる?」


 不思議そうな顔でサインは訊いてきた。確かにその質問は適当だ。的外れでない。


 しかし。


「もちろん決まってるだろう?」


「何がでござる」


「念禁止発言はお前への意地悪だけだ!!」


「断言するなぁ!!」


 顔を真っ赤にして殴りかかってくるサイン。もちろんのこと、それを僕は避ける。


「だから、僕のための念能力使用は別にいいのだ!!」


「身勝手でござる最悪でござる死ねでござるぅー!!」


 がばっとサインは腰の刀を抜き出す。そしてそれを念を込めながら僕に向け――


「――うおッ!!」


 一気に振り落とした。


 急いで『絶対空間』を作り出し、僕の身の回りを無効化する。しかし、サインの念が大きすぎたため、範囲が大きくなり――


 遠くの方でズドーンという音が鳴り響く。慌てて後ろに振り返ると、そこには崩れ落ちる山が存在した。地平線を軸に考えると、丁度四十五度ほどの角度の線で切られている。『切られている』と書いたが、これをやったのは勿論サインなわけで。


 サインが山をぶった切ったわけで。マンガのように。マンガだが。


「……………………」


「……………………」


「……………………(ギロ)」


「……………………(慌)」


 こちらが人睨みするとサインは慌てて違う方向に視線を向けた。そんなことに誤魔化される僕ではもちろんなく、渾身の力を込めた拳でサインの頭を触れてあげた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


「こんの馬鹿!! てめえ、何てことしてるんだ!?」


「痛いでござる!!」


「僕は痛くない」


「当たり前でござるよ!! ふざけてるでござるか!?」


「お前がふざけてるんだろ」


「……………………」


 僕が静かに言うと、サインは沈黙した。しかし、僕はそれを許さない。


「何か言うことは無いのか? なんか子供に向かっていってるような気がするが。というか、本当はお前、−50歳だろ」


「生まれてすらいないでござるか!? しかも50!?」


「√50でもいいぞ」


「√!?」


「ちなみに簡単にすると5√2になるな」


「どうでもいいでござる!!」


「どうでもよくないぞ? これの意味がわからなくて悪戦苦闘してる中学生もいるはずだ」


「拙者にはいみがないでござる!!」


「じゃあ、お前、計算できるのか?」


「……………………」


 沈黙するサイン。おいおいおい。まさか、マジでできないのか? それはちょっと……やばいんじゃないのか?


 …………は!


「やばいやばい。もう少しで誤魔化されるところだった」


「主君がいきなり言ったでござる……」


「とにかく! 何か言うことは?」


「……………………。ごめんでござる……」


「ゴメンで済むか! どこに、誰の所有物かわからない山をぶった切る奴がいるか! いや、お前だが。とにかく、そんなことになったら僕が面倒くさいだけだろうが!!」


「……自分の心配だけでござるか?」


「もちのろん」


「……はあ」


 サインに溜め息をつかれた。屈辱!


 一体何があったかというと、サインが振りぬいた刀。そこから出た衝撃波が山一つを切ったのであった。


 ……いや、『あった』では片付けられない話だが。というかそもそも信じられない話だが。


 サインは主に二つの念能力を持っている。


 一つは先程の「風切り」である。命名は僕が行った。ちなみに某ドッグ夜叉から思いつく。


 力としては単純で、ただ単に力強く刀を振りぬくだけである。そしてその後、念によって強化された『空気』を吹っ飛ばし、広範囲に物を切り裂くというものである。


 通常であればここまでの力は出てこないのだが、サインは不老不死である。そして、何年もの年月を老いることもなく生きてきた。その結果、強大なるオーラを手にすることになり、また不死であるため、失ったオーラは補充されるため、こんな力技が可能となったのだ。まったくもって末恐ろしい奴である。


 もう一つは「永遠の助けメモリーライフ」というものがある。これはまあ、ぶっちゃけて言うと傷を治すというもので、サインの念とは関係ない。ただ、自然に治るのは念能力のせいと思わせるために作ったものだ。もちろん、他者の傷を治せるわけではない。


 とまあ、こんな念能力があるのだが、はっきり言ってサインには技術力は無い。だから溢れるほどの時間とエネルギーがあっても、まともな念能力は身に付けられないと思う。『風切り』あけでも十分脅威だし。


 そして、僕の念能力は『絶対空間』である。この念能力はサインのと違ってよく考えたと自分でも思っている。


 そもそも、僕は周りの念能力者達が強大な力を持っているように思えたのだ。使い方によったら自分より何十倍もの力を持った奴を倒すことも可能な力。ここではクラピカと幻影旅団を思い浮かべてもらったらいいだろう。


 そこで僕は考えた。相手も自分も念を使えない状態に持ち込んだらどうか。そこで出てきたのが、この『絶対空間』である。


 この念能力は自分と、自分から半径五十センチメートル内を念が全く使えない状態にするというものだ。つまり、僕を倒すには肉体能力のみという状態にしたのだ。


 もちろん、制約もある。それは、『絶対空間』以外の念能力を一切使えないというもの。基本も使えず、オーラは基本的に垂れ流し状態となる。


 つまり、僕と相手は同じ条件下で戦うことが可能となるのだ。しかも、付属品として除念までできるようになったし。


 とまあ、ここまでが僕たちの念能力紹介である。


「まあ、さっきのは冗談ではないけど冗談ということにしておいて」


「できないでござる」


「とりあえず黙っとけ。――念は使ってもいいけど、やっぱりあんまり使うなよ? いろいろと迷惑だ」


「最後まで自分本位でござるか……」


 またもや溜め息をつかれた。もう無視しておくことにしよう。うん。


「それじゃあ、あともう少しぐらい――」


「八人目」


「……………」


 ……………………。


 九人目をサインにしたい。切実に。


「それじゃあ、まあ進む――」


「ぎゃー!!」


「てめえ! 何しやがる!!」


「――くくく 試験官ごっこ? おや? そこにいるのはおいしそうな人たちだね?」


 僕とサインはお互いを見やりながら、同時に呟いた。


「最悪だ……」
 



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