逃亡大作戦
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疲労回復にいいんだって。
だから徹夜でこれ飲もう。
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「ささささささささささサイン! これは逃亡ではない! そうだな!?」
「そそそそそそそそそそそうでござるよ! これは戦略的な撤退であるにすぎないでござる!!」
僕は背中にサインを乗せながら、走っていた。後ろから迫り来る恐怖から逃れるために。
「うううううううううううううぎゃあああああ!! まだ追いかけてくるううううううううう!!」
「ぎいいいいいいいいいいいいいやあああああ!! ははははは速く走るでござるうううううう!!」
「くっくっく(ハート)逃げないでくれよ(クローバー)」
「うんぎゃああああああああああああああああ!!」
僕は思い切り力を込めて地面を蹴り続けた。思えば、こんなにも急いで逃げたのは半年前ぐらいのゾルディック家の暗殺から逃れたとき以来かもしれない。
そもそも、こんなことになっている原因はシンプルなものだった。
前回、ヒソカと鉢合わせした僕達であったのだが、
『おや? おいしそうな子達だね。是非手合わせお願いするよ』
『頑固拒否する!!』
『くっくっく。そんなに恥ずかしがらなくても』
『恥ずかしがっているかー!!』
というわけであった。
…………どういうわけだろう。
いくら背中にサインを乗せたままであったとしても、曲識兄さんから直接逃げを教わった僕の逃亡を見事に追いかけるヒソカ。変態パワー恐るべし!!
……って、そんなこと考えてる場合じゃない!!
「うおりゃあああああああああああ!!」
「おーい(スペード)待ってくれよ(ダイヤ)」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕はそう、無我夢中で走る。走る。
無我夢中で走ること、十分ほどであろうか。振り向くとヒソカはもういなかった。どうやら振り切れたようである。
……うん? 待てよ?
よく考えてみたら、あそこでヒソカが僕たちを追いかけていたから、レオリオ達は逃げた――よな? さすがに。
となると、だ。
……無意識に原作、変えちゃった?
……………………。
はははははははは、はははは、ははは、はは、は。……………………。
大丈夫、だよな? だよね?
「大丈夫だよな、サイン」
「――ほへ!? そ、そうなんじゃないでござるか? というか何を――」
「うん。そうだよね。良し、そうしよう」
「だから一体何が!?」
「あ、サイン。円をして、みんなのいるところを突き止めて。僕では場所がわからないからさ」
「見事に無視でござるか? ――……えーと、ここから向こうにだいたい五十キロ先でござる」
そう言って、サインは右斜め後ろの方向を指で指した。それにしても、サインは凄まじいオーラ量を持ってるよな。しかも、増えはするけど、減りはしないってものなんだから。
ま、僕の念能力相手ではオーラ量は関係ないんだけど。
「ん、ありがと。それじゃあ行くか。サイン、お前、歩けるか?」
「無理!!」
「……もう少し遠慮深そうに言えよ。まるっきし頑張る気無しか? コンニャロ」
「無理なものは無理でござるゥ〜」
口笛までサインは吹き始めた。余裕のよっちゃんという感じである。いくら心のシンパティイが余るほどある僕であってもキレないのは難しいものがあるぞ?
「よし、置いていこう」
「ごめんでござるずいばぜえんでござる置いでいがないでぐらざいでござるゥゥー!!」
「……………………」
態度がすぐに変わる奴だな。
「わかったわかった。ちゃんと背負っていってやるよ」
「当たり前のことでござるゥ〜」
……………………。
「置いて――」
「ごめんでござるずいばぜえんでござる置いでいがないでぐらざいでござるゥゥー!!」
……………………。
こいつは……なんなんだろうか。少なくともアホ馬鹿、間抜けの三つの称号を手に入れてることは確かだな。
「それじゃあ、行くぞ。落ちるなよ?」
「当たり前でござる。拙者をなんだと思ってるでござるか?」
「身体能力からっきしのアホ馬鹿、間抜け」
「……………………」
「……………………」
「それでは出発進行でござる!!」
「はいはい」
僕たちは先程、サインが指し示したところに走っていった。
……といっても走ったのは僕だけだが。
「フウ……着いた」
「やっとでござるねえ」
僕たちは(僕は)やっと第二試験会場に辿り着いた。なぜかわからないが、この第一試験が異様に濃い試験だったような気がする。
主人公組みと出会い、ヒソカに会ってしまい……こうやって書くと少ないように見えるけど、完璧にこれは濃いぞ! しかも、これから後はもっと濃いことをやるような感じがいっぱいするんだけど! 軽く未来に絶望しちゃいそうなんだけど!!
ううう……自殺するのは兄さんだけでいいんだよう。
「おい、! サイン! お前ら、どこいってたんだよ!」
大声を上げて近づいてきたのはキルア。少しばかり気まずい感じでいっぱいなのだがもし。
「それに、! さっきのはどういうことなんだよ」
「それは――そうだ! もっと仲良くなったら教えてあげるよ」
「仲良く? ……今は違うってことか?」
声のトーンを小さくさせて、キルアは後半を言った。どことなく闇を感じさせる表情。懐かしさを感じさせる表情。
しかし、僕はそんな表情を見て喜ぶSでもMでもないのですぐに誤解を解こうとした。
「違う違うって。僕とキルアはもう仲いいよ? 寧ろ僕の仲良し上位に行くぐらいだよ?」
殺人鬼だから仲が良いのは少ないし。
「でも、キルアだって友達だからと言って全部を教えるっていうわけじゃないだろ?」
「――……まあな」
少しばかし考え込んで答えるキルア。まあキルアは今まで友達がいなかったからこの例え話は間違ったかな?
「それでピンとこないなら家族でいいんじゃないかな。家族だって凄く親密感があるけど全部言うわけじゃないだろう?」
「親密感なんかまったくないけど、そうだな」
納得という顔で頷いたキルアを見て、僕はほっと安心した。
そしてしばらくすると向こうから覚えのある顔が――顔が!?
「ここここりゃ急いであああそこに行かないと!! 行くぞ、サイン」
「ほへ? 何ででござ――うぎゃあ! そそそそそうでござるね! 主君!」
僕はサインの手を引っ張りながら特等席に走っていった。絶を使いながら。僕が使える数少ない念が絶である。もっとも、これは僕がこの世界に来る前に既に身に付けていたものであったのだが。
特等席。それは――
「――いきなりなんですか。あなた方は」
「お願いです! 匿って下さい!」
「変態に目をつけられたのでござる!!」
サトツさんの上っている木の上であった。
僕達が言っている変態が誰なのか、サトツさんはすぐに理解したようで、哀れみの視線を僕たちに向けた。
「それはそれは――大変でしたね」
「そうですよそうですよ。あんな変態は手におえないんです! あんなのは一人でも殺したいのに二人そろっちゃったら……もう……」
「恐怖体験でござる……」
二人で同時にぶるりと震えていると、サトツさんはもう一度、大変でしたねと言った。少しばかり扱いが雑のような気がしたが、僕は気にしないことにした。ああ、なんて心が広い僕。
気分を変えようと、僕がサトツさんに話し掛けようとしたそのとき、二次試験会場の扉が開いた。
ついに――
「どうやら二次試験が始まるようですね。あなた方も行ったほうがよろしいのでは?」
「そうですね。――おい! サイン! 豚狩に行くぞ!!」
「ほえ? どうしてで――ぐええ、首が、首が絞まるでござるぅぅぅぅ!!」
「大丈夫大丈夫。死なないから」
「死ななくても痛みは――ぐえええええええ」
「それじゃあ、サトツさん! さようなら!」
「さ、さようなら……」
僕はサインを引っ張って森の中に入る。第二試験の課題である豚を手に入れるために。
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