豚取り大合戦



生き急ぐ無かれ。
死に急げ。


「おい! 急ぐぞ!」


「な、何を急いでるでござるかア!! 痛いでござるよ!! 最高に痛いでござるよ!! 手を離して欲しいでござるよ! っていうか耳が千切れるでござる!!」


「おいおい……お前、忘れたのか? 僕がこの試験内容を! 何日か前に! 濃密に! ゆっくりと! 猿でも犬でも雉でもわかるように! 教えただろうが!! 忘れたとは言わせない。言ったら殺す」


「どこかに置いて来てしまったでござる!」


 晴れ晴れとばかりにサインは言った。憎たらしいし、僕のあの貴重な時間を返せとも言いたいし、何より理由は関係なく、理由は無く、


「殺す」


「うえ? ぶッ――」


 富国強兵デスリッチ(スコップのような武器ね)で僕はサインの首に突き刺し、心臓を抜き取り、足を細切れにした。使用推定時間は三秒。


 この場所にサインを置き去りにし、僕は森の奥に走っていく。そして豚を発見する。豚というには凶暴そうな動物を。


「うわあ……でっか……」


 豚はぶおおおんと鳴き、僕に突進してくる。だいたい……五十匹ほど。


「ええッ!? 多すぎじゃないの!?」


 そんな思いの僕とは関係なく、豚は一気に四方八方から突進してきた。僕は服のポケットの中から二つの凶器――消化警報デリートミュージック富国強兵デスリッチを取り出し、次々に豚を殺して回った。


 さすがに巨体の豚を五十匹も殺したのは骨が折れる作業で、その作業で五分ほどもかかってしまった。まあ、他の人からしたら「たった五分!?」なのかもしれないが。


 殺した豚の中から小ぶりで運びやすそうな奴を二匹(僕の分とサインの分)背中に担ぎながら先程サインを置いていった場所に戻った。


 そこには怒髪天のごとく怒っているサインがいたわけで。


「いきなり何をするでござるか! 普通の人間ならば死んでしまうでござるでもだからといって拙者にやっていいというわけじゃないでござるしそもそも痛かったでござる寂しかったでござる恨みに思ったでござる寂しかったでござる思い出そうとしても思い出せなかったでござる一人でとても寂しかったでござるどうしてくれるでござるか!!」


 と一息に言ってのけた。心の中でそれに対して拍手する。ぱちぱちぱちぱち。はい。それで終わり。


「何か言ったらいいでござる!!」


「べっつにー……無い」


「無い!? 拙者をこんな目にあわせてもでござるか!?」


「うん」


 僕が普通に肯定すると、サインは二の句も告げないといった感じで、口をぱくぱくと動かしていた。


 僕はそれを無視して、サインをも担いで走る。背中で講義の声が聞こえるが、無視した。重さはあまりないが、ちょっとかさばるなあ。バランスとるのが難しい。豚二匹と猿一匹だから……。


「誰が猿でござるか!!」


「ええッ!? 心読んだ!?」


「何年も一緒にいてたらだいたい何を言いたいかわかるでござる。それにしても、なんで豚を取りに言ったでござるか?」


「……前に言ったぞ?」


「忘れてたら意味が無いでござる!」


「お前が言うな! しかも胸を張るな!! ――豚を取るのが第二試験なんだよ」


「豚をでござるか! たったそれだけでござるか!?」


「だったらテメエ一人でとってみろ。丸一日かかるぞ」


 これは普通の人間にとってはありえない難問――らしいから。僕は普通にあの鼻から脳までぐぐっと切って殺したけど。……あ!


「やばッ! 丸焼きにするの忘れてた……お前、マッチかなんか持ってない?」


「持ってるでござるよ」


「ええッ!! 持ってるの!?」


「持ってるのがおかしいでござるか? これは乙女の必需品でござるよ?」


「こわッ! どんな乙女なんだよ! まずお前が乙女じゃないし――ま、ありがと」


「拙者だって乙女でござる……」


 ぶつくさ言うサインからマッチを受け取ると、背中に乗せていた物を一気に落とした。


 サインごと。


「痛ッ!」


「まーず、マッチに火を点けてー」


「いきなり何をするでござるか!!」


「それでこれを豚の中に入れるー」


「無視すんなでござ……る?」


 僕の目の前には輝かしい光を放っている豚君達がいた。おお、君達は神様になったのだ。その神々しさはそれ以外の何者でもあるまい。


 正確には燃えてるだけだけど。


「おおー。燃えとる、燃えとる」


「燃えとる、ではないでござる!! 山火事……森火事を起こすつもりでござるか!!」


「そんなに怒鳴って喉大丈夫か? ああ、お前不死身だから喉も元に戻るのか」


「怒鳴らせるなでござる!!」


 そんな風に問答してる間に豚は丁度いいくらいに焼けてきた。もちろん、こんな血止めもしてない豚を食べようとは思わないが。


「そんなに怒鳴らなくても大丈夫だって。ほら、こうすれば――」


 僕は豚を上空に高く振り上げ、一気に下ろした。その風圧で豚に着火していた火が消える。やったね。


「……………………」


「ほら、大丈夫だろ?」


「……………………そうだったでござる。主君は非常識であったんでござる。殺人鬼だし」


「不老不死が何を言うんだ?」


「……何も言わないでござる」


 はあ、とサインは溜め息をついた。サインの分際で溜め息をつくとは生意気に。


「それじゃあ、急いで見せに行くぞ。具体的にヒソカが来る前に。積極的にヒソカが来る前に」


「そうでござるね!!」


 僕とサインは互いに顔を合わせると、同時に頷いた。以心伝心なり。

 僕はこんがりとした豚二匹とサインを背中に乗せてひた走る。試験官に向かって。



戻る メニュー 次へ

この小説が面白いと思われたら、 下をクリックして下さい!何か一言添えてもらえるとすごく嬉しいです!!

また、下もクリックしてくださったら嬉しいです。(ランキングに参加してるので)
DREAM×HUNTER  D+S ... DREAM SEARCH  Dream Navigator

inserted by FC2 system