の受難とサトツの受難



生きてる限り死ぬことは無い。

死ぬのは生きてないからだ。


「速いわねえ。さっき試験について言ったばかりでしょ? ブハラ」


「そうだね。君達、すごいよ」


 僕はあのあと、足に精一杯力を込めて走った。その一念はヒソカと会いたくないというもの。そのせいでこんなにも息が上がってるのは自分ながら馬鹿みたいだな、と自嘲した。


 しかし、しかたないのだ。ヒソカがものすごい変態で、とある変態を思い起こしてしまうという同情を寄せられるべき理由もあるが、なにより重要なのは、ヒソカが重要キャラだということ。


 二年程前、僕がこの世界に来たときに幻影旅団と出会ったが、そのときに逃げた理由と同じだ。重要人物だから――殺せない。殺したらどうなるか分からない。少なくとも、私怨で殺すわけにはいかない。


 だのに、ヒソカときたら出会っただけで殺そうとしてくるんだから、もう始末に終えない。できることと言ったら出会わないようにすることだけである。


「うん。おいしい。二人とも合格!」


 よし! となったら次に起こすべき行動は――!


「次行くぞ! サイン!」


「ふへ? ……痛い痛い痛い痛い! だから耳を掴むなでござる!」


「わかったわかった。だったら早く背中に乗れ。それともここに居とくか? ヒソカが――」


「行くでござる! お願いします!!」


「現金なこっちゃ……」


 僕は呆れながら、サインを背中に乗せた。そして川に向かって走っていく。後ろの方でメンチとブハラの声が聞こえるが、遠くてあまり聞こえない。まあ、大方どこに行くの! とかだろうけど。


「それで、次はなんなんでござるか?」


「お前ねえ……少しは思い出そうとか無いの? 少しは考えろよ」


「そんな気は毛頭無いでござる!」


「威張るな!! そんなことはまったく自慢にならんわ!!」


 まったく。こんな風に育てたお父さんと対話したいよ。もう死んじゃってるけどさ。 何百年も前に。


 うーん。こんな性格のお父さん――会いたくねえ!!


「――次は寿司だよ。お寿司。おーすーしー!! もう一回言うぞ? イッツア寿司!!」


「そんなに言わなくてもわかるでござる。馬鹿にしてるでござるか?」


「うん」


 僕の肯定の声にサインはしばしの間沈黙する。サインを背負ってるからどんな顔してるかわからないんだけど、ふむ、どんな顔をしてたか見てみたいところだな。


 しばらく経ってから、「……そうでござるか」と小さくサインは言った。それから、まるで気分を変えるかのように、必要以上に声を張り上げながら言う。


「寿司でござるか!! 寿司といえば拙者の国の伝統料理でござるな!! ってことは主君は魚を取りに行ってるでござるか!! でもここは森であって海ではないでござるよ!!」


「……そうだけど、もうちょっと声のボリュームを小さくしてくれ。耳元で五月蝿い」


「でもあれは難しいでござるよ!? 主君とか拙者に簡単にできるものではないと思うでござる!!」


「無視かよ……。――だから早く行動しようとしてるんじゃないか」


「ほえ?」


 メンチはあの……ええっとなんだっけ。まあいいや。禿と口論してから駄目になったからな。だから急いで寿司を作って、急いで食べさせて、急いでサトツさんの木に登るんだ!!


 そうこうしてる間に川に辿り着いた。魚が悠々と……悠々……。


「気持ち悪」


「気持ち悪いで……ござる」


 正直に言おう。こんなのを食べようとするメンチはマゾだ。それでもってサドでもありそうだから……ヒソカの同類!?


 いやいや。そんな馬鹿なことを考えてる場合じゃない。急いで魚を釣って戻らなければ。


「念のために五匹ほど釣っていくぞ。気持ち悪いけど」


「本当に気持ち悪いでござるよ……まあ、しかたないでござるな」


 僕は川の中に入って、五匹掴んだ。触るのも嫌だけど、こればかりは仕方ない。人殺しを何度もしてる殺人鬼が、頑張って生きている魚……魚だよね? 魚に気持ち悪いなんて言う資格は無いだろうし。


 先程掴んだ魚をサインに持たせる。サインに持たせる理由は、僕はサインを運んでいると魚をもてないため、運んでる間はサインに持ってもらわないと落としてしまうからだ。


 サインも僕から魚を受け取るとき、嫌そうな顔をしていた。まあ、仕方ないとわかっているのか、何も言わずに魚を持つ。


 急いでサインを背中に乗せ、第二試験会場に戻った。他の受験生たちは居ないから、きっと魚を取りにいったのだろう。今のうちに合格しなければならない。特にヒソカが来る前に!! 


 僕は包丁を握ると、魚を裁いた。メンチとブハラのこいつ何者!? という視線は無視だ! とことん無視だ!!


 適当な大きさに切り終え、それを握った酢飯のご飯の上に置き、メンチの場所まで持っていく。どきどき。どきどき。


「あんたって、さっき居なかったわよね? 何で寿司って分かってるの?」


「まあ、それは企業秘密ですよ」


「……ああ、念ね」


 メンチはサインを見て納得した表情をした。まったくもって違うのだが、まあ、わざわざ誤解を解く必要もあるまい。そう思って、僕は何も言わなかった。


「うーん。まあまあね。まあ、基本は押さえられてるし、形も綺麗だから、お情けで『おいしい』わ」


 よし! お情けでも合格は合格だ! あとの心配はサインだが……。


 そう思って後ろを振り返ると、丁度サインも作り終わったようだ。それを皿の上に載せてもって来る。


「うん? あんたもできたのね。どれどれ――」


 そう言って寿司を口に運ぶメンチ。僕の心臓は緊張でどきどき言っている。


「……………………」


 先程からメンチは黙ったままだ。まさか、それほどに不味かったのだろうか?料理を食べてもらうわけでないのに、僕は緊張してしまう。


 しばらくするとメンチは静かに口を動かした。


「……おいしい」


 うん? 何か聞き間違えたか? そう思って耳をそば立てていると……。


「おいしい――!!」


 てっぴどいダメージを与えられた。主に鼓膜に対して。


「この絶妙な形加減! 硬くもあり柔らかくもある!! シャリのおいしさを十二分に生かす上に、噛めば噛むほど新たなる味が広がってくる――――!!」


 他にもいろいろと料理の腕のよさをサインに対して言いまくっている。サインはそれに対して若干引き気味で、はい、とか、ええ、とかそんな言葉で返している。


 ……そうか。サインって料理上手かったんだ……。


 もしこれが、僕が料理を食べたときに始めて知ったのだったら大いなる感動が僕に降りかかっていただろう。感動のあまり泣き出すかもしれない。メンチがここまで絶賛するのであれば。


 でも、ここまでインパクトあるものだったら……感動できません。


「――あなた!! 私の専属コックにならない!?」


 そこまで話が進んでるの!?


「それはできないでござる。拙者は主君の部下でござるから」


 そう言ってサインは僕にちらと目を向けた。おい、ちょっと待て。このシュツエーションは……


「おいあんた!! なんたる資源の無駄使いをしてるんじゃこりゃあ!!」


 やっぱりィ―!?


「――ってあんたこそ専属コックとか言ってるじゃねえか!! お前こそ資源の無駄使いだろうが!!」


「ああーん! やんのか!?」


 秀麗な顔がどんどんと変貌していく様は凄く怖い。なんなの? この人。


 とか思いながら外に目を向けてみると――凄い人だかりが。ヤバイ。もう人が戻ってきたのか!?


「――っく。行くぞ! サイン!!」


「はいでござる!」


「おいまてこんにゃろ! まだ話が――!」


 僕は聞いてられるかという気持ちになりながら走った。メンチは試験官だから追いかけてはこれないはずだ。


 …………多分。


「もう大変なんですよー。正に鬼の形相といった感じでやってくるんですから」


「そ、そうですか……」


 僕は木の上に登ると、サトツさんに愚痴をこぼした。体が引いてるのは僕の気のせいではないだろう。サトツさんには迷惑をかけていることは理解してる。でも……まだまだ言葉を重ねていく。サトツさんに迷惑であったとしても!!


 と、試験会場の方で大きな音がたった。きっとあのプロレスラーみたいなやつが殴った音だろう。となると……。


 しばらくすると先程よりも大きな音がして、建物を壊してプロレスラーが飛んできた。きっとブハラがぶっ飛ばしたのだろう。それにしても、プロレスラーさん。おかわいそうに。合唱。


 ここでブハラがぶっ飛ばしたということは、そろそろ来るはずだ。あの狸じじいが。


「それにしても合格者二名は厳し過ぎではないかね?」


 ネテロ会長が飛行船に乗ってここにやって来た。



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