出会い(出合い)







あなたは紙ですか?

神です。




「――ううううう。腹減ったよう……」


 僕は山賊の襲来の後、比較的、無事に山を降りた。もちろん、その比較的の中に、スズメバチに追いかけられるものや、とても大きい熊に殺されそうになったり、なぜかライオン三十頭ほどが、信じられないほどのスピードで――例えるならばヒョウのような――こちらに向かってきて、食われそうになったことが含まれるのであればの話だ。


 それにしても、あのライオンは大変だった……。もう少しであれらの胃袋の中に入っていたところだ……。


 そして、山から下りた後、山の周りをほとんど一周してしまい(歩く方向を間違えてしまったので。やっと町に着いたときに、山から下りた場所を見つけて泣きそうになった)体中がくたびれてしまった。しかも周りを歩いたときの方が時間がかかっているし……。


 しかし、ひたすら歩いたことのよって満腹度が危ないことになっていた。早くおにぎりを食べなければ!


「パンでもオーケイ……」


 ……………………。


 まあわかる人にしかわかんないか、これ。


 とにかく、僕はひたすらおなかが減っていた。早く食べなければ飢え死にしてしまう。


「――まあこれもわかる人しかわかんないな……」


 僕は重い足を頑張って動かし、歩いていく。すると、誰かとぶつかってしまった。


 ぶつかってしまったのは赤い髪の毛をした鎧に見を包んだ――鎧?


「あ、すいませ――」


「――貴様ッ!」


 あれ?


 なんか仇を見るような表情でこっちを見てくるんですけど……。


 え、ただぶつかっただけですよね?


「貴様! 今貴様は拙者の刀を足蹴にしよったな! 私が武士だと知っての狼藉でござるか!」


「いや、知らないし」


 それに、ござる? 武士って、何?


「武士というのはな――」


「いや説明しなくていいから」


 目の前で肩を怒らせているのは、たしかに武士と言われて想像できる格好をしていた。体中を鎧で包み込み、右手には日本刀を構えている。


 ん? 構えて、いる……?


「斬る!」


「うわうわうわうわ!いきなり何すんの!?」


 武士野郎(勝手に命名)はいきなり僕に切りかかって来た。


「ちょっと刀に足がぶつかったぐらい、いいじゃないか!」


「武士の魂を汚すものに妥協など存在せぬ! 潔く散るでござる!」


 うわッ! 本当に斬りかかってくるよ!


 く、しかたない。


「早くご飯食べたいのになあ……」


「ぬっ!」


 僕は、とりゃ、と相手の足を蹴り、転ばさせてから刀を奪った。


「む、無念……」


「はあ、疲れた……早く行こう――」


「お主? 拙者を斬らぬのか?」


「は?」


 お腹に手を当てながら立ち去ろうとした僕に、不思議そうに鎧野郎は問い掛けてきた。


「何で?」


「拙者はお主に負けたのでござるよ?敗者を斬るのは当然でござる」


 どこまで武士気取りなんだよ……。


 僕は溜息をつきながら言った。


「別にそんなことしないよ。今回のは別に戦ったわけじゃないし、そもそも殺そうという意欲がその外見に圧倒されて出てこないっていうか――」


「うぬ。気に入った!」


 鎧野郎はいきなり叫んだ。おいおい、何が気に入ったって言うんだ?そして、この嫌な予感メーカーが作動するのは何でだ?


「敗者にも慈悲深いものを与えるなど人として立派! 微力ながら御仕えさせて頂きたい!」


 何を言ってるんだろうか。慈悲深い? 初めてそんなことを言われたよ。


 いや、そもそもコイツ、さっきまで僕を殺すとか言ってなかったっけ。――気分次第でころころ変わるんだな。まるで潤さんみたいだな。髪の毛も赤だし……。


 丁重にそれを断ろうとしたとき、僕のお腹の虫が「ぐー」と鳴った。


「……………………」


「……………………」


「…………とりあえず近くのレストランに連れてってくれる?」


「わかりましたでござる」


 武士被れは大きく首を縦に振った。











「とりあえず名前を教えてくれる?」


 ここは先程の武士野郎が連れてきてくれたレストラン。この中でまで鎧を着けようとしていたので、それを脱ぐように言ったら「主君のご命令ならば」と言ってそれを脱いだ。すると驚いたことに、


「女……?」


 女だった。


「む……主君も拙者を女と侮るでござるか?」


 不服そうに言った。過去に何度もあったらしい。


「いや、そういうわけじゃないさ」


 ただ喋り口調が全く男言葉だから、てっきり男だと思っただけで。まあ大丈夫! 読者の皆さんは文字しか見えないから、どう読んでも男だって。


 まあ、僕は男言葉、というか女の人が話すような言葉でないものは潤さんで耐性がついてるからいいけど。


 ――というわけで(どういうわけ?)席まで案内された後、各々頼みたいものを頼んだ(ちなみに僕はたらこスパゲッティとドリンクバー、女はステーキ定食をそれぞれ頼んだ)。


 そこで冒頭に戻るわけだ。


「拙者の名はサインでござる」


 意外と……普通? いや僕からしたら普通じゃないけどこの世界では普通なんだっけ。


「苗字は肩奈良根備皿肩鳴螺子出茂使用かたならこんびざらかたならしでもしよう でござる」


 …………前言撤回。十分変だった。なんなんだ?その、暴走族がつけるようでつけないような名前は。少なくとも一発で覚えられるわけがない。僕は覚えることを放棄した。


「…………とりあえず僕はサインって呼ぶよ」


「承知いたしたでござる」


 そう言って大きく頷くサイン。いろいろいろいろと聞きたいことが沢山あるけど、まあそれは水分でも手に入れてからだな。


「それじゃあドリンクバーでもやってくるよ」


「むむ、それは新手の格闘技でござるか?」


「……………………」


 なんて言うんだろうか。この、過去からやって来て、「うわーここって不思議!」とか叫びまくり、テレビを見たら「人が箱の中に入ってる!」とか言ってる人を見るような気分になったよ。


「ドリンクバーっていうのはね」


「ふむふむ」


「ジュースを――ってジュースもわからない?」


「何をおっしゃるでござるか。腐ってもサイン、それぐらいのことは知っているでござる」


 そう言って胸を張っているサインには悪いけど、ドリンクバーがわからなかったら腐ってるそのものなんだけど。――というかドリンクもわからないのだろうか……。


「ジュースが飲み放題のシステムのことだよ」


「そうでござったか。いやー、世の中は変わるものでござるな」


 うんうんと感心してるのはいいけど、それじゃ済まない筈なんだけどね……。


 うーん。


 ……………………。


 まあ、いいや。







 というわけで(だからどういうわけで?)、僕はドリンクバーをやりに来た。ふーむ。どうやらドリンクバーの前には客がいないようだ。これは喜ばしいことだな。他に人がいると変に遠慮してしまうんだよなぁ……。


 そして何気なく客席を見渡した時、僕はドリンクバーも、サインも、そして頼んでいる食事やハラペコになった自らのお腹ぐあいでさえも頭から吹っ飛ぶような、ありえないものを目の当たりにしてしまった。


 ……………………。


 ……………………?


 ……………………!?


「うわぁ」


 思わず僕は呻き声を上げてしまった。しかし、この驚愕の事実の前にはどうでもいいものだった。


 そこにいたのは、髪をオールバックにしている、黒髪の青年。以下それに続く、いかにも堅気ではなく、裏の世界の住人であることをいかんなく周りにアピールしている集団であった。


「おいおいおいおいおいおい、こんなのねえだろうがよお――」


 そこにいたのは、現世では大人気、主人公組とタメをはる(一説にはそれよりもさらに)ほどの人気を誇る敵キャラ。世界を股にかける、極悪非道の大盗賊団。クラピカの仇であり、戸籍が全く無い集団。


 幻影旅団のメンバーがそこにいた。



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